ロシア旅行(ボルガの船旅中心)とその後知った事

1.はじめに ロシアは近くて遠い国だった。高校迄新潟で育ったので対岸のナホトカはいずれ行けるだろうと思っていたが縁が遠く、効率の悪い共産主義が残れる時代でも無かったしロシア国家破産危機もあり、興味が湧かなかった。66歳の最近になってようやく天然ガスを巡るオルガルヒの活動やプーチン率いるロシアの利権拡大・興隆ぶりを聞き、一度見てみたくなった。今回はモスクワからサンクトペテルブルグまで、途中キジ島等に立ち寄り乍らのボルガ川下り1800kmの旅を選び楽しむ事が出来た。折しもウクライナ(ロシアにとって中心的存在の一つだった旧ソ連の国。国家形成期はキエフの方が中心だった)を巡り、一極覇権の崩壊(ドル暴落)を食い止める為軍事力でロシアを抑えつけ逆に強化(ドル防衛)したい米国とこれに対抗してもう一方の極BRICSの連携を強化拡大させようというロシアとの大戦直前の軍事・経済の角逐が展開されているので、ロシア国内にも緊張が漂っているのかと思っていた。しかし少なくとも一観光客の眼から見る限りロシアは全くのんびりしたもので、道中ずっとどこでも観光客で賑わっていてかなり拍子抜けだった。お陰でロシアの豊かな自然・文化・芸術を堪能して充実した心が潤う旅を味わう事が出来た。今回ロシアの現状を見て感じた様々な事を、ロシア関連の世界史の基礎知識部分を確認し照らし合わせながら纏めておきたい。 2.旅の概要 (1)スケジュールと内容のあらまし 旅程は2014.6.20~7.2迄の13日間。テーマは「ショーロホフ号で行く世界遺産キジ島とロシアの母なる大河ボルガの船旅」であった。モスクワやサンクトペテルブルグ観光にも最低限必要な日程は確保されており、見るべき所は観て来れたと思う。 ・大韓航空でソウル経由モスクワへ。空港の入国審査は行列は長かったが緩かった。市内で3泊(ホテル1泊・船中2泊)し観光した後、夕刻ボルガ川クルーズに出発した。ドイツ建造の船で乗客は200名余、日本人21名を除き大半がドイツ人だった。 ・ボルガ川は両岸とも白樺やアカマツ等がずっと延々とほぼ同じ高さで綺麗に立ち並び、偶に森の中にダーチャと呼ばれる別荘や教会が点在して見えていた。途中ウグリチ、ヤロスラビ、ゴリツィー、キジ島、マンドロギーに立ち寄り観光ながら、川下りを存分に楽しんだ。船室は狭くシャワーと手洗いが一緒でちょっと驚いたが、慣れれば特段問題も無く、食事も昼夜ともコースメニューでおいしかったのでつい食べ過ぎ・飲み過ぎがちになった。船旅なので日本人の同行の方々から多くの旅行や人生の体験談を聞くことが出来て楽しかった。又イベントでドイツ人乗客との歌の交歓会で俄か合唱団員になり「百万本のバラ」や「故郷」を合唱したり折り紙を通じた交流の企画もあって、原生林の中をボッーとする暇もあまりないまま開始7日目の朝にサンクトペテルブルグに到着した。 ・サンクトぺテルブルグではそのまま船中で2泊した。お目当てのエルミタージュ美術館やピョートル宮殿等の観光はいずれも期待に違わぬものであった。サンクトペテルブルク国際白夜マラソン?に出くわしたせいもあり、バスがかなりの渋滞に巻き込まれたしどこも観光客の行列が凄かった。本当に満足しきって3日目の夜、再び大韓航空でソウル経由関空へ帰国した。 (2)旅の見所 <モスクワ観光> ・初日 ロシアの歴史や文化の原点となった郊外の都市群「黄金の環」の代表格セルギエフ・ボザードへ。ロシア正教最大の聖地で世界遺産のトロイツェ・セルギエフ大修道院(モンゴルが支配した14世紀初めに建立)は、モンゴル支配に対抗するロシア諸公のまとめ役を果たした所。ロシアで最も尊敬される聖人セルギイが整備されたモスクワで無く、原生林でクマ・狼や冬は零下20~30度の中で貧苦に耐えながら聖書の教えをひたむきに求めて信仰生活を送った所だ。その聖セルギイの祝福を受けたモスクワ大公ドミトリー将軍率いるロシア軍がモンゴルに勝利した。ロシア軍の勝利を神に感謝しイワン雷帝が建て、代々の皇帝が戴冠式を行ったという白亜のウスペンスキー聖堂等を見学した。今回「黄金の環」の言葉自体も初めて知ったが、それぞれがロシア諸公国の首都として、最終的にモスクワが中心になっていった源流となった地域の事だったのだ。ソ連崩壊後、大修道院、モスクワ神学大学、聖歌隊指揮者、イコン画家等正教文化の中心地となっている。 ・2日目 雀ガ丘から市街を一望後、チャイコフスキーが「白鳥の湖」を構想したという湖の近くのノボディヴィチ女子修道院や、エリツインやゴルバチョフの妻等の様々なレリーフの墓がある隣接の墓地を見たり、多くの壁画で有名な地下鉄(最近事故があったようだ)に入場して大混雑の中を皆ではぐれない様にしながらキエフ駅(ロシアは行き先が駅名になっている)等の多くの壁画を鑑賞した。又、1856年に豪商トレチャコフが創設したイコン画等の古代ロシア民族画を集めたトレチャコフ美術館を見た後、広大な赤(美しいの意あり)の広場を聖ワシリー寺院等を眺めながらゆっくり散策した。ここがソビエト時代以降毎年11月7日に革命記念軍事パレードが開かれている所なのか。 ・3日目 雨の日に時間指定でクレムリン(城塞)見学。12世紀に木造の要塞で始まった。15~16世紀に現在の形になり、この時点でロシア正教の総本山ウスペンスキー聖堂等を建立した。プーチンの大統領府があるとは思えない程警備が手薄のように見えた。ロシア最古の博物館である「武器庫博物館」には1613年~1917年迄続いたロシア最後の王朝のロマノフ王朝の宝物等12世紀以来ロシアの皇帝が収集して来た世界の美術工芸品が沢山展示されていた。     <ボルガ川の船旅> ・4日目 古都ウグリチに夕刻着。イワン雷帝の死後流された息子ドミトリー・ナ・クラヴィーの名の付いた聖堂を見学した。 ・5日目 ヤロスラヴリ 2010年に建都1000年を迎えた世界遺産(2005年)「黄金の環」最大の街。15世紀にはボルガ川を伝って、カスピ海、黒海、バルト海、北海を通じる一大交易都市として発展した。13世紀に創建された中世建築の傑作スパソ・プレオブラジェンスキー修道院へ。5千ルーブル札にある小礼拝堂を見て、修道院内の庭では鐘を使った生演奏を聴き、教会内で聖歌と民謡のアカペラを聴く。実力も音響も素晴らしかった。預言者イリヤ聖堂前を行く人。この聖堂はフレスコ画で名高くユネスコの世界遺産に登録されている。 ・6日目 ゴリツィー キリルベロゼスキー修道院を見学。夜10時でも明るい白夜は初体験です。 ・7日目 キジ島 欧州第2の湖オネガ湖に浮かぶ緑の世界遺産キジ島散策。幅500m、長さ7キロの細長い小島だ。木造のプレオプラジェンスカヤ教会は修復中だったが、緑の小道を歩みながら徐々に近づくと想像を上回る大きさを持った美しい教会だった。特に木製で作られた22個の玉ねぎと言われる部分はじっと見上げ続けても見飽きない美しい曲線をなしていた。補強工事中だったが中のイコノスタシスは鮮明で、中には曼荼羅風のものもあって驚いた.売店のお嬢さんは純朴そのもの。他の冬の教会や、ベル・タワー等の木造建築群も自然にマッチして美しく、先住民にノブゴロドからの移住者がキリスト教を伝えロシア正教会の教会を建設したのだ。ボルガ川の北のはずれなので流石にここまでは争乱が及ばなかったので残ったのであろうこの島の風景と聴いたベルの音は心と耳に深く刻まれて残っています。 ・8日目 マンドロギ-- 素朴な森に生産者自身が直売する民芸品店が多くあり良い土産を沢山見つけた。又ウオッカ博物館、馬術ショ-、民族音楽ショー等を楽しみながらのバーベキューは格別の味であった。 <サンクトペテルブルグ観光> ・9日目 聖ニコライ聖堂を撮影し、エミルタージュ美術館「冬の宮殿」へ。大混雑で並んで順番を待ちやっと印象派のゴッホ、モネ、シスレー等や、レンブラント、ダ・ヴィンチの作品のみを中国人観光客の行列割り込みの酷さに憤慨しながら慌ただしく見学できた。帰国後美術館で買った「エルミタージュ」を眺めて見たが、見ていないものがあまりにも多く、いずれ又ゆっくり鑑賞したいものだ。その後水中翼船で郊外のピョートル夏の宮殿で大噴水を見た。夜はパレスシアターで本場のバレエ「白鳥の湖」を鑑賞出来た。時代の変化からか原作の悲劇をハッピーエンドに変えていた。 ・10日目 翌日はエカテリーナ宮殿へ。金箔の大きな部屋が続き勢威が窺えたが、順番待ちの観光客でごった返し、ゆっくりは見れなかった。1960年代に戦争の破壊から修復されたという豪華な大理石の階段からレリーフを見ながら入った。陶器のコレクションや美術品は戦乱を避けウラル地方に逃れていたという。「明るい回廊」の雰囲気を味わい大広間天井の「ロシアの勝利」も見上げ豪華な「食事の間」を見ながら行った「黄金のアンフィラーダ(続き部屋)」のハイライトの「琥珀の間」は写真撮影禁止だったが天井から壁まで美しい琥珀で埋め尽くされていた。「緑の食堂」も一度はこんな場所で食事をして見たいと思わせる空間だった。まだまだキリが無いので一度は行って見て下さい。今回は行けなかったエカテリーナ公園等も再訪して見たいものです。午後はイサク寺院に。帰途にネギ坊主が派手な「血の上の教会」を撮影した。夜は船内で有志のカクテル&ウオッカパーティーで名残りを惜しんだ。 ・11日目 18世紀にスウェーデンの攻撃から守る為作られたというペテロパブロフスク要塞を見学。中央の大聖堂にはピョートル大帝やエカテリーナ2世等の皇帝達の棺が華やかに並べられていた(お骨は地下との事)。端の方にはレーニンやドストエフスキーを収容した獄もあった。いつかドストエフスキー「罪と罰」の舞台も歩いてみたいものだ。 3.ロシア旅行の感想 (1)ロシア正教の著しい復活盛況ぶり ロシア正教はピョートル1世やソビエトによる受難の時代を経て完全に復活していて大盛況である事を目の当たりにする旅だった。ロシア旅行中毎日のように教会を訪れ、昔から表現様式が殆ど変わらないという美しいイコン画を観て、主要教会では聖歌の素晴らしい合唱を聴く日々が続いた。ソビエト時代の弾圧の跡は殆ど窺えないし、国民の日常生活に横3本のロシア十字架やイコン画が深く根付いているように感じられた。 <ロシア正教の歩み(概要)とロシアの歴史> ・988年  キエフ公国のウラジミール大公が正式にキリスト教を受け入れる。妃の出身国ビザンティン帝国の国教であったギリシャ正教を選んだ。当初はコンスタンティノープル総主教の管轄下だったが、その後ギリシャ正教が次第にロシア独自に発展していく。 ・1236年 キプチャク・ハーン国の侵略が度重なり中心都市キエフは荒廃していった。ウラジミール大公没後は強力な支配者があらわれずモンゴルの襲来を受け支配されたのだ。 ・1345年 モンゴル支配は教会には寛容で、荒野修道院運動でモスクワ郊外にトロイツェ・セルギエフ大修道院が建立される。 ・1453年 ビザンチン帝国が終焉しモスクワ・ロシアが出現した。紋章を双頭の鷲に。1480年にはモスクワ大公イワン3世がモンゴル軍を撃退し250年以上続いた「タタールのくびき」が終りを告げた。 ・1547年 イワン4世(雷帝)がロシア統一し皇帝に。しかしバルト海進出を狙ったがポーランド等との戦いに疲弊しその後も安定せず混乱の時代(スムータ)が続く。 ・1589年 モスクワ府主教が総主教に昇格。ローマ帝国、ビザンティン帝国亡き後モスクワ大公国こそ「世界を支配するキリスト教世界帝国=第3のローマ」との思想も登場。文化・芸術の隆盛が始まる。 (17世紀~ロマノフ王朝時代 典礼の改革を巡り正教会は分裂。又、皇帝より教会が上位にあると主張した為正教会の力は弱まっていく) ・1721年 ピョートル1世(大帝)は総主教の地位を廃止。替りに宗務院を設置し皇帝の管理下に。美術と宗教を切り離させた。1712年サンクトペテルブルグをしロシア革命迄続いた新首都に。 (1762年即位のエカテリーナ2世と共に西欧の政治制度を吸収し侵略と併合で列強入り。文化・芸術も発展させコレクションはエルミタージュ美術館の母体になった。ボリショイ劇場も建立した。 18世紀末からはツルゲーネフ、ドストエフスキー、トルストイ、プーシキン等の文豪を輩出した。1812年ナポレオンとの大祖国戦争に終止符、1904年の日露戦争、第1次世界大戦で食料・燃料難となりロシア革命勃発) ・1917年 帝政が崩壊し、教会は2世紀ぶりに総主教制を復活させるが、それも束の間で、今度は「無神論」を掲げるソビエト政権により厳しい弾圧を受ける。 ・1985年 ゴルバチョフのペレストロイカ政策で、再び最大の宗教団体として復活。 ・1988年 政府が全面的に支援して1000年祝賀祭を開催。教会の権威が急速に復活。 日本は明治新政府により1868年の神仏分離令、1870年の大教宣布で廃仏毀釈が進んだが、その後の市民生活に占める宗教(特に仏教)の密着度会いは低いままである事と対照的だと感じられた。 (2)美しく素朴さを感ずる広大な国であった事 モスクワは緑も豊富でゴミも無く道路清掃の散水車も頻繁に見かけ、赤の広場も街並みも教会を中心にしてカラフルで整然としていて、本当に美しい首都であった。勿論ボルガ川の両岸の原生林は期待通り美しく、船からボッーと眺め続けいても見飽きなかった。サンクトペテルブルグは中心部の美術館・宮殿・教会の華やかさは格別だが、一方で自動車も多く道路の渋滞がかなり酷かった。街外れにはコンテナ風のやや粗末な住宅?らしきものの一角もあり気になった。自然や街もそうだが、教会音楽、バレエ、民芸品等の文化度が高く、人々も素朴さを感じさせる人が多かった。ロシアが他国からの侵略や度重なる戦争を繰り返し撃退して来た歴史の概要を知った今、米国との大戦争の瀬戸際に立たされていても割と平然としていられる理由が何となく理解出来た気がした。日本へのお土産は、どこに行ってもマトリョーシカがあっていくつかは買ったが後半はもういいと思って他の品を探したが、帰国後定番だがやはりマトリョーシカがロシア土産らしいと好評だった。ホフロマ塗りの親しさを表すというスプーンも喜ばれた。ただ今回の旅行先はロシアの殆ど全てのように思っていたが、地図で見ると広いロシアの中のほんの西欧よりの一部に過ぎない事も再認識した。 4.番外編(緊迫する国際情勢関連) (1))欧米の経済制裁の影響は? 出発前に欧米によりロシアに経済制裁があった事は知っていたが関空で円をルーブルに替えていった。ところが少なくとも観光客への値付けは殆どがユーロであり、ルーブルで払うとレートに手数料がかかるのか割高になるので驚いた。ドイツとロシアの関係は表面上はともかく意外に密接な事の証左だろう。この問題で帰国後に大ニュースが待っていた。ブラジルでのBRICSの会合でBRICS開発銀行創設決定の報道である。これは戦後ずっと続いて来た米ドル・石油本位制への挑戦になるものであり米国経済にも大打撃を与える事になるので米国は絶対に座視し得ないだろう。欧米のロシア経済制裁の第2弾もあるようだし、今後どう展開していくのか経済に止まらず米国/NATOとロシアの軍事的衝突に至る事も充分あり得る大問題だ。100年前の第一次世界大戦、70年前の第二次世界大戦後初めての世界の覇権構造に大転換を齎す可能性が強い歴史的な出来事と思われる。小競り合い程度で辛うじて平和裏に進展していくのか本当に核戦争になるのか、世界は今瀬戸際に来ていると思う。 (2)ウクライナ政変はロシア攻撃の拠点作り 出発前に、ロシアの隣国ウクライナで暴動後のクーデター的政権交代で親米政権が誕生し、それに即座に対抗したロシアによるクリミア編入、東部ウクライナの親ロ派自治政府の発生、それを押し潰そうとするウクライナ政府軍の攻撃と、米国とロシアの間にかなり激しい角逐があった。旅行の間特にボルガ川クルーズ中は新情報も途絶えて久し振りにのんびりしたが、帰国後事態は緊迫度を増しとうとう7月17日にはウクライナ東部上空1万メートル超を飛行中のマレーシア航空機が撃墜されるに至った。攻撃したのがウクライナ政府か親ロシア側なのかまだ分からないが、私自身ははっきりした推論とその論拠は持っている。いずれにせよ、撃墜直前のイスラエルのガザ侵攻、マレーシア航空機撃墜、イラク北部のISISの攻勢は皆世界の覇権を巡る関連した動きである事は間違いないだろう。周辺国も全て各々多大な影響を受ける事は当然である。勿論日本の中国敵視策や集団的自衛権問題もこれらの動きと直結していて、米国ネオコンの指示に基づくものだろう。一般の日本人からすると信じ難いと思うが、米国は本気でロシアとの核戦争も辞さずの構えであり、中東ガザ攻撃やイラクの内戦やアフリカの資源争いに日本の自衛隊を下請けとして参戦させたいようである。米欧/NATOと連携して露中に対決し、米国から日本に対し一説では軍事費は20兆円、自衛隊員も沢山出すよう強い指示があるといわれている。本当はのんびりと川下りをしたり、こんな旅行記を書いていられるような平穏な場合では無いのだが。 (3)作家ミハイル・ショーロホフと手塚治虫 若い頃ドストエフスキーやトルストイ等の翻訳本を受験勉強そっちのけで読んだが、今回乗る船の船名のショーロホフは読んだ事が無かったので旅行前に短編を探し赤木かん子編の「戦争」(ポプラ社)に選ばれた「人の運命」という本を読んだ。ウクライナがソビエトの一員だった時代にドイツとの戦争(1941年~45年)に召集され人生を翻弄されるウクライナ出身の逞しく優しい兵士の物語で、戦争が人の運命を狂わす悲しみが心に響く名作品だった。ウクライナが地政学的にも本当に重要な位置にあるのは今も昔も変わらないようだ。同じ本に手塚治虫の「ぼくは戦争を忘れない/語り部になりたい」があり実際の被爆撃体験を基に人間狩り、大量虐殺、言論の弾圧という国家の暴力があった時代の事を語ってくれていた事も知った。昭和19年、勿論漫画は1冊も無かった時代、軍需工場への動員、空襲等について描かれていた。 4.終りに 大概どこの国に行っても一般の国民の多くは善良な人達の方が多い。ロシアはロシア正教会の影響なのか観光客の立場からなのか思っていたよりずっと純朴な人達しか会わなかった。しかしプーチンを支える人達の中にパミャーチと呼ばれる一団があるそうで、この存在があるので米欧/NATOの攻撃に曝されても今の所何とか対抗出来ているそうである。表面だけは自由な民主主義国の体面を装っているが、内実は昨今は特に隠しようも無くあからさまに米国のいいなりにさせられている日本の現状とは対照的だ。いくら天然ガスや北方領土の権利が欲しくても、米国と完全に敵対しているプーチン大統領との交渉が許される状況では無い筈だが、マレーシア航空機MH17の撃墜事故では米国の要請に拘わらずまだロシアの仕業と決めつけず非難をしていないのは注目される事だ。訪日の実現はもう無理と諦めざるを得なくなるのではないだろうかと思うが実現すると面白いのだが。私達も攻められてもかわす術を持って何度も復活する独立自尊の国になりたいものであるが、当面は軍事ではオスプレイの本土配備等本土の基地化進展、経済は消費税増税やTPPの多大な影響により弱者から順次脱落する社会が更に加速して、一層苦境に立たされていくだろう。しかしいずれの日かロシアの250年余続いた「タタールのくびき」ならぬ日本の「米国のくびき」から解き放たれる時が来るのだろうか。いずれにせよロシアは自然も宗教も音楽も文学もとても魅力的な国だった。その一端を見る事が出来て大変楽しく、心の糧になる旅行であった。… [more]

ロシア旅行(ボルガの船旅中心)とその後知った事 ロシア旅行(ボルガの船旅中心)とその後知った事

ギリシャ旅行(古代は神話と民主制国家の源、今は財政破綻のみ強調される国)で考えた事

1.はじめに ギリシャにはおよそ3000もの島があるというが、私は3つの目的でギリシャ旅行では人気のエーゲ海で無くペロポネソス半島主体の小旅行を選んで行って来た。 ①「若き日」に憧れていたがすっかり忘れていた古代ギリシャ文明・美術に直接触れる事。又、一時だが目指したオリンピックの発祥の地を見る事。 ②「民主主義」の淵源と言われる地で、そもそも古代ギリシャの民主主義とは本当はどんなものだったかを考え、現在の日本の「民主主義(もどき?)」の問題点を再認識し今後の参考にする事。 ③財務省は消費税増税の為に「ギリシャの財政破綻」を盛んにPRして一般の日本人を騙している。外国に多大な借金をしている財政困窮のギリシャと90数%が国内で消化される国債で賄う日本の財政の課題との関連性は全く希薄であるとの論点を強化する事。 (1)ペロポネソス半島とアテネ歴史の旅 最近のギリシャ旅行はエーゲ海巡りやメテオラネス修道院等の方が人気があるようだが、今回は古代ギリシャ神話や民主政治の発祥の地として輝かしかった歴史の舞台の中心地である「ペロポネソス半島とアテネを巡る旅」の企画は希望にぴったりだったので飛びついた。 ①オリンピア遺跡は今もオリンピックの採火をするヘラ神殿前の採火灯や2004年のギリシャ五輪の時も円盤投げ会場として使われた古代競技場もあるとの事で、一度は行って見たかった。 ②昔良く父に聞かされたが今は死語のようなスパルタ教育のスパルタは、アテネと拮抗して戦い続けて消耗した為双方共倒れとなり、その後長い間東ローマ帝国やオスマントルコ、ドイツ出身の国王等にずっと支配され続ける結果を招いてしまい、長い主権喪失期間を経てようやく1829年に独立した事や、独立後も2度の世界大戦、戦後の内戦等動乱続きで大変だった歴史の一端に触れる事。 ③何と言ってもアテネでパルテノン神殿を見て往時の勢威を偲びアクロポリス博物館、アテネ考古学博物館で古代ギリシャ文明や美のレベルの高さに触れる事。 ④バッセのアポロン神殿、ギリシャ正教会の聖堂、ティリンス遺跡、エピダウロス遺跡、ミケーネ遺跡、コリントス遺跡等でギリシャ神話の骨格となる舞台を見て、その後の争奪の歴史にも触れて、欧米の文明文化の起源の地がその後どのように展開していったのかに触れるのが目的だった。 (2)古代の民主制国家とはどんなものだったのか。現代にどんな影響を齎しているのか。 3年前のトルコ旅行でエフィソスに行った際ソクラテスも逗留した舞台でもあった話を聞き、昔読んだプラトンの「ソクラテスの弁明」を帰国後読み直して見てギリシャに行かなければと思った。又今回のギリシャ旅行ではプラトンの「国家」が今でも欧米の国家戦略立案者、特にネオコン思想の中心と言われるハーバード大学でも必須な基礎知識となっている事を知り、帰国後初めて読んで見た。昨今の日本の政治状況を見ると「民主主義は理想の制度では無い」という疑念が深まるが、約2500年も前のプラトンの「国家」では民主主義がファシズムを生み出し易い制度である事が語られていて、今の日本や世界各地の実状そのものであり、描かれていた事や人物像は現代にもそっくり通じるものであり自分のようなタイプの人間も批判の対象になっていたりして本当に驚いた。更に日頃日本には民主主義ですら実はちゃんと根付いていないし、むしろ後退している現状である事を再認識させられているのだが(司法・検察当局の権限が強大過ぎ、かつ恣意的運用も強過ぎて冤罪も多い)。日本でも地政学や国際関係論といった学問がもっと深く拡がって視野の広い人物がそれを政策に生かして国際協調を大切にしていかないと、折角アジアで唯一植民地化しなかった国なのに、時を経て「国家」に描かれたように権力者が劣化して政治(軍事)も経済も表向きはともかく実質的に完全に植民地化されてしまう危険性が強まって来ている。 (3)ギリシャと日本の財政事情は全く別物である 今日の一般の日本人には「ギリシャは財政破綻した国」であり「日本も消費税を増税しないとギリシャのように財政破綻してしまうから大変だ」という誤った認識が完全に刷り込まれて、ギリシャは財政破綻した貧しい気の毒な国と考えている人が多い(尤もそんな関心すらも無い人の方が多いが)。しかし、このプロパガンダは消費税増税を認めさせ権益を更に強化する為に財務省等がマスコミを動かし行われたものであり、全く関係もないギリシャにとっては引き合いにされて迷惑な話だろう。ギリシャは2010年にユーロ危機が叫ばれてから4年目を迎え予想通り破綻もせず今の所危機は沈静化している。ユーロ圏にとってギリシャは歴史のルーツであるという意味合いに加え、観光地・別荘地として無くてはならない存在であり、又オリーブやぶどう等の食料も豊富で、ドイツ等からの債務返済要求も当初の厳しい姿勢が徐々に緩やかなものになって来ているようである。ドイツ・フランス中心の欧州にとってギリシャは必要不可欠な国なので決して切り捨てられたりはしないだろう。 一方、貯蓄大国である日本の消費税増税の本当の目的は①消費税の輸出大企業への還付金により輸出大企業の輸出競争力を支援する事 ②法人税減税分に充てる事とが大半の目的である。この事は、これまでの消費税導入後の税収の推移等を調べれば明確に理解出来る事だ。又、「税と社会保障の一体改革」や「高齢化社会での社会保障費の増大に対処する為」という一見尤もらしい大嘘も消費税増税の決定と併せて年金制度等あらゆる社会保障制度の改悪が続く事で隠しきれなくなりつつある。アベノミクスは金融財政で無理やり株を急浮上させ少数の不動産・株式保有者は大いに潤い喜んだが、本当の成功である景気回復に必要な第3の矢の成長力・国際競争力の回復には繋がっていない。今後、経済特区で外国資本を誘致したり雇用条件を自由化して切り下げたりしても本格的な景気回復は困難である。遠からず(中国発になるか?)又々バブルが崩壊し、アベノミクスの失敗が明確になる確率は限りなく100%に近いと思う。一般国民も嘘を信じていたと皆気付く事になるだろうが、その時に後悔してももう遅いのだ。それにしても一般の日本人が同じ嘘に何回でも騙され続けるのも悪く、もう庇いようが無いと半ば呆れ半ば諦めて突き放して見ているしかない。 確かにギリシャの財政事情は悪くユーロの信認を崩しかねない存在のようだが、それとてドルの基軸通貨性を守る為に米国がゴールドマンサックスが中心になってユーロを相対的に弱体化さす為にギリシャを材料にして攻撃を仕組んだ事は知る人ぞ知る公然の事実だ。この状況を利用した日本の財務省は「消費税増税によって自らの権益を拡大する為」だけに、先進工業国で国民の貯蓄が著しく大きくリーマンショック時等も安全通貨としてドルも避難してくる程相対的にはまだ財政が健全な日本と、農業・観光国でドイツを始め他国からの借金比率の高くなりすぎた小国ギリシャでは他の条件は全く違う事を百も承知なのに「GDP対比の政府の債務比率の高さ」のみを取り出してマスコミを通じて多くの日本人の将来不安を煽り、「ギリシャのようにはなりたくないから何とか財政破綻を免れる為、辛かろうが増税に甘んじて社会保障制度を守ると共に子や孫の将来も守っていくべきだ」とマスコミを使って洗脳してしまっているのが実状だ。ギリシャの現状の一端を理解して、「日本の財政問題はギリシャとの関わりで無く独自な問題として考えるべき」という認識が必要である。本当に騙されるのもいい加減にして欲しいものだが、このまま国債増発と公的年金による株式買い支えだけで株高を演出しているとインフレリスクが高まり年金世代を中心に大きな負担増に繋がっていき弱者の脱落が消費支出の縮小、社会の不安定化に繋がっていくだろう。一部で喧伝されているが本来は遠い筈の、ヘッジファンドの狙う国債の暴落や金利急騰等の最悪の事態も視野に入りだして来るかも知れない。 2.旅行日程(2/23~3/3) 第1日目 関空~イスタンブール経由アテネへ 乗り継ぎが慌ただしかった。 第2日目 アテネからコリントス経由オリンピアへ 今回の旅はゆったりとした大型のバスでペロポネソス半島中に麓から山上まで連なるオリーブ畑とぶどう畑を見ながら走り回る旅だった。2004年のアテネオリンピックの時に作られたと舗装道路は驚く程整備されており、トンネルも片側通行で2本ずつ作られておりオリーブが美しいので快適だった。見所は1893年に掘られたコリントス運河だった(現在は小さな観光船が通れる程度)。 第3日目 オリンピア遺跡、考古学博物館見学後ギティオへ ・オリンピア遺跡はBC776年~AD392年迄約1000年間ゼウスへの奉納競技が行われた場所。遺跡中が野生の花々とオリーブ等の木々に彩られレスリングや競技場(2004年のアテネ五輪でも投擲競技が行われた)等各施設が古代そのままに残っていた。ゼウスの神殿や今も2020年の東京五輪でも聖火を採るヘラの神殿も時空を超えて厳かに存在していた。 … [more]

ギリシャ旅行(古代は神話と民主制国家の源、今は財政破綻のみ強調される国)で考えた事 ギリシャ旅行(古代は神話と民主制国家の源、今は財政破綻のみ強調される国)で考えた事

イスラエル旅行と、その後知った事

<はじめに> 今の世界情勢に多大な影響力を及ぼすイスラエルの実像を少しでも観たい、行けば何かが分かるだろうと思い、2013年2月末から10日間行って来た。旧約聖書も新約聖書も読んだ事は無いが、3つの宗教の聖地エルサレムに行きそのイロハも知りたかった。行って見ると思いがけなく美しい風景や、豊富美味な食事も良かったが、何といっても古代から現代に至る壮大な歴史・宗教の渦巻が強烈であった。旅行中やはり実力のある凄い国だと思うようになっていった。ただ他の旅行先の時は、帰国後1カ月程で旅行記も無邪気に纏める事が出来たが、イスラエルだけは何かまだ本質的な理解が足りな過ぎると感じ何も書けなかった。歴史・宗教についても知識不足だし、政治・軍事状況は錯綜しているので表面的知識だけでは不十分で、余程良く見極めないと安易に語れない問題も多く、帰国後に知識の確認や補充が必要でした。10か月経過してようやく最低限の情報の整理と自分なりの納得が出来たので現段階の到達点として纏めて、やっと辿り着いた基礎的判断材料としておきたい。 折しも、最近イスラエル中銀のフィッシャー前総裁が来年2月にFRBの副議長になるというニュースがあった。サマーズやバーナンキを指導した人らしいが、ユダヤ金融資本主義が裏で世界を支配しているという風説がまるでその通り表に現れたようなニュースだ。金融や政治についてちょっと知れば、世界は我々一般人の想像を超えたレベルで極く少数の権力者への集権化が進んでいる事が見えてくる。日本でも日銀の株主、日本の株式会社の株主構成や提携先を見ればおぼろげながら実態が分かってくるし、具体的事例を探して挙げる材料に事欠かない。又、日米欧のマスコミを支配していて僅かでもその実態への言及や批判を封じ込めようとしている。しかし、少人数の権力者集団が銀行、軍事力&検察・警察を握りながらマスコミを通じ情報統制を強化しようとしている実情を全て覆い隠す事は難しいだろう。現在米国ドル・石油本位制による単独覇権維持が難しい微妙な局面を迎え、激しい角逐が続いている事を知る人も少なくない。この問題の根底と今後の見通しを把握するのに良い考える材料を提供してくれる国がイスラエルだと思う。今回見た事・知りえた事を繋ぎ合せ、複雑極まりない世界の歴史・宗教・政治軍事状況に強い影響を与えているイスラエルが一体どんな国か、その一端でも正しく認識して、その力に圧倒されるだけでなく日本の美風・大切なものは何なのかを再確認して守っていく手掛かりにしていければ良いと考えている。 <旅程と概要> 第1日 関空→トルコ航空でイスタンブール経由テルアビブへ ・テルアビブ 空港は賑わっていた。玄関口にベン・グリオン初代首相の像がある。直ぐに空港から北へ走行したバスの両側はずっと菜の花が一面に群生していて、美しかった四万十川や宇佐神宮の川岸・指宿等の菜の花程鮮やかではないが、これだけ連綿と長く続く菜の花畑を見るのは初めてで、本当に綺麗な国に良い季節に来たものだと感激した。 第2日 テルアビブ着→アッコー→ハイファ泊 ・カイザリア テルアビブから北へ40kmの所にある紀元前後、初代ローマ皇帝アウグストゥスに従っていたユダヤのヘロデ大王が築いた街で、ここからペテロ・パウロがローマへ向かいキリスト教の布教を始めたとの事だ。美しい地中海が眩く目に飛び込んできて海岸の間近にある円形劇場跡や導水橋跡等を見ながら散策し、春風を楽しんだ。 ・アッコー  交通の要衝にあるこの街は歴史上十字軍とイスラム等の攻防・戦闘が繰り返された小高い眺望の開けた丘にある。十字軍の要塞も残っていた。現在は残存パレスチナ人が1/3居住しているが高い所はユダヤ人、低地がアラブ人と居住地が分かれているそうだ。オスマンの旧市街は世界遺産になっているが通過しただけだった。 ・ハイファ   … [more]

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イラン旅行と最近の中東情勢で感じた事

<はじめに> イランに9月26日から11日間旅して来た。「栄華を極めた古都と素朴な村を巡る古代ペルシャ・バスの旅」である。 一般的な日本人から見ると「イランは危ない国」のイメージが強い。確かに戦乱・動乱の続く中東は内戦・テロも多いだけでなく、比較的遠いし何故そういう状況になっているか分からないので敬遠するのは理解出来る。しかし、日本のマスコミ報道は欧米マスコミのキリスト教の立場を元にしてシオニズムで出来たイスラエルの影響を強く受けたプロパガンダ報道の追随が多く公平性に問題がある。マスコミ以外の情報も加味して見ると内戦の続くシリアを別にすれば、イランではこの旅行期間に本格的な戦争は起こらないしテロの危険も極小だと判断した。そして今後「イスラエル&欧米とイランの戦争が回避出来るのかどうか」を見守る上でより正確に理解する為に、自分の眼で本当のイランの現状も少し知っておきたかった。一時は米国の空爆の危険が高まったが、ロシアの介入や米国議会が慎重になった事等で回避された。そしてたまたま今回の旅行直前に、ローハニ新大統領とオバマ大統領の歴史的な電話会談があり、又11月初旬からジュネーブで開かれているイランの核開発問題協議が大詰めを迎えている。イスラエルやサウジアラビアの反対が強く協議成立迄に簡単にいく筈はないが、この成否は中東地域だけでなく世界情勢の安定に多大な影響を及ばすので協議の行方を固唾をのんで見守っています。 中東情勢についての基礎知識は、現政権の政策に批判的な元官僚の孫崎享氏(元イラン大使)や天木直人氏(元レバノン大使)の著作やメルマガ、JSRメルマガ他の情報がより公正で信頼性が高いと考えて参考にしている。又、小室直樹氏の「イスラム原論」や「アラブの逆襲」も読み直し、理解出来る範囲で(旧約聖書や新約聖書、コーラン等を読んでいないので充分な理解は難しい)それらも照らし合わせながら自分の感じた事を纏めてみた。日本の人達が国際情勢に多大な影響を及ぼすイラン問題やイスラム教を偏った情報だけでなく、少しでも公正な立場から考えイラン等イスラム圏の多くの善良な人達と友好関係を築いていけたら良いと考えています。イラン(ペルシャ)は決して侮れない実力を持ち世界をリードしてきた輝かしい歴史・文化・宗教が存在し理解を深める事でより心豊かになれると感じさせる旅でした。 <私の見たイランの現状と背景> 現在は人口7000万人余のイラン。豊か過ぎる親欧米産油国のカタール航空便でカタール経由まずは1260万人が住む首都テヘランへ。街はイラン高原の麓で海抜1500Mと高く、北に4000m級の山々が並んで聳えていて美しくホテルではエアコンを切って過ごした(空調は全館一律タイプだが)。山の向こうはカスピ海で南岸は緑も豊かで冬は雪も降るという。テヘラン市内は鉄道や地下鉄の整備が充分でなく南北のメインストリートは酷い渋滞(ガソリン不足の筈だが)で悩まされていた。今は欧米主導で日本も追随した経済制裁で、飛行機の部品が供給されず運行が不安定な為バスで国を縦断しようという企画の旅であったが、却ってよりイランの魅力に浸れる旅だったと思う。 1.宗教=イスラム教関連について ・イスラム教の教義と一般イラン人のイスラム教&現指導者層への思い 使徒モハメットが西暦610年メッカ郊外でアッラーの神の啓示を受けたとして始めたイスラム教の教義に六信(神・天使・啓典・使徒・来世・定命)五行(信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼)があるようだ。異郷・異教の私だが、トルコやエルサレム、イラン等を旅して訪れるイスラムのモスクはどれもとても好きな空間です。礼拝は他のイスラム教国では決められた通り5回行う人が多いが、イランでは3回で簡便に済ます人も多いそうで全く行わない人も3割程度らしい。今回のツアーガイドは日本に6年間暮らしたイラン人だったが、預言者モハメッド布教以前のアケメネス朝ペルシャやササン朝ペルシャ時代等古代の非イスラムの歴史・文化の豊かさを誇りにしていてイスラム一色ではないようだった。前回の大統領選挙では投票で下位だったにも拘わらず、イスラム教指導者達の推薦で強硬派のアフマディネジャドが就任したいきさつがあったらしく当時も反対のデモがあり、今回選挙では自分達の選んだローハニが新大統領に選ばれたので米国との関係が改善されそうだと皆大歓迎だったそうだ。 ・偶像崇拝禁止の意義 各地に大小いろいろなモスクがあったがテヘランは少ないと感じた。モスクの中はどこも偶像は何も無く、ただ壁面や天井は美しく床に絨毯やゴザも敷き詰められた心休まる空間でした。イスラム教の偶像崇拝禁止は、バーミヤーン遺跡(アフガニスタン)の大仏の破壊等何であんな乱暴な事をするのかと思っていたが、アッラーの神(神だがヤハウェと同一ではない)を唯一絶対の神としモハメットですら最後の使徒で最大の預言者として位置づけられていて偶像化していない。又イスラム教の信徒間は平等で王様も貧民も神の前では同列だそうで宗教指導者はいるが聖職者・僧侶階級を持たない事は、僧や神官を別格扱いしている日本人には理解しにくい所だ。それでも異教徒の私でも、モスク構内に入ると何とはなしに漂う温かさや優しさに共感や安らぎを感じて心が伸びやかになるのが嬉しい事です。 ・ハラール(食べて良いもの)とハラーム(食べてはいけないもの) テヘラン市内のバザールの中の食料店に質量とも豊富な食材が並んでいるのに驚いた。くるみ・ピスタチオ・ピーナッツがあまりに安くておいしかったので、大量に買って来てお土産にしたが、友人・知人から好評しきりでした。欧米日等の経済制裁により4年間年率30%のインフレに苦しめられているが、それでも食料自給率は100%で輸出もしていて食料問題はないとの事(但しテヘランは家賃が高く、殆どの人が仕事を2つ掛け持ちで働いていて、医師が夜タクシーの運転手をやる位との事だった)。アルコール厳禁なのでノンアルコールビール(但しレモン味等)で過ごしたが痛痒は感じなかった。ケバブも美味だが、ホテル・レストランはどこへ行ってもほぼ同じパターンのてんこ盛りでとても食べ切れなかった。豚だけでなく牙や爪がある動物が禁止されている(ハラーム)が制限は複雑で(意外に解釈は柔軟らしい)、食べて良いものはハラール表示のあるものに限定されているとの事。いずれにせよ食べ物はふんだんで果物も何でもあって皆とてもおいしいし、スイーツはアルコールが飲めないので発達していて、日本に負けず劣らずのおいしいお菓子が豊富でお土産にしたら大変喜ばれました。 ・イスラム教シーア派の国 イランは世界のイスラム人口16億人のうち約1割という少数派のシーア派が殆どの国だ。スンニ派と元々の教義に大差は無さそうだが、モハメッドの血統を継ぐイマームをいだくか、血統にとらわれないカリフを信者代表とするかの違いがある以上の事はまだ理解していないのでこれ以上触れない。イスラム教第一の聖地メッカのある多数派のスンニ派の国サウジアラビアとは関係が悪く、シリア内戦でもイスラム少数派のアラウィー派のアサド政権支持のイランと反政府軍支持のサウジアラビアとは敵対して主導権争いをしているようだ。勿論イスラエルや欧米の諜報組織も深く絡み石油利権を巡って争っているようだが、中東のより根本的な問題はパレスチナ問題だ。それにカダフィーやムバラク等独裁的政権が倒れた現在、サウジやカタール等湾岸国の王家の存在はまだ盤石だろうが微妙でに複雑に絡み合っているので正確な把握は難しいが、出来るだけ正確に知ろうとしている所です。 今回はイスラム教シーア派第2の聖地ゴムでマスアーメ廟を見学。ここはイスラム革命の発端となった地でホメイニ師もここで学んでいた人口78万人の宗教保守派の牙城。多数の参拝者と教学者達がいたが、皆ホメイニ師の怖いイメージとはほど遠くにこやかでゆったりとしていて教学者に声を掛けたらきさくで一緒に撮影に応じてくれた。ゴムを本拠にする現指導者のハーメネイ師達はローハニ以外を選びたかったようだが、52%の選挙結果には抗えなかったようだ。 2.政治&軍事関連 ・原子力 イランは医療用アンソトープの生産を行うテヘラン原子炉の稼働の為20%高濃縮ウランの自国製造を進めていると主張しているが、核保有に繋がる90%以上の高濃縮ウラン製造に繋がると警戒されてきた。そこでイランはIAEAの査察受け入れをするので経済制裁を大幅に緩和するよう主張している。それでも今回協議成立迄至らず20日に再協議となったようだ。イスラエルは自国の安全の為に核武装していて米欧も暗黙で認めている事は公然の秘密だが、中東の他の国の核武装はイスラエルが絶対に認めないので米欧・IAEAも認めない。今回イランがIAEAの査察を認めてもイスラエルが協議成立に反対なのは、核保有せずともイランの影響力の強大化を警戒しているのだろう。イスラエルは経済制裁の緩和を極小にすべく強硬に主張していて大詰めの段階だ。今回旅行時テヘランからイスファハンへバスで南に向かう道中に2か所核関連施設が遠望できる所があったが、走行中の車中からの撮影すら禁止されていました。 ・パフレヴィー時代と(ホメイニ師らの)イラン革命の見方 モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー(パーレビ国王)は父の開いたパハラヴィー王朝の2代目。1970年代は米国との関係は良好で最恵国待遇を得て最新鋭の戦闘機や旅客機を供与される等イラン近代化(開発独裁)を推進した。又ヒジャブの着用禁止等の女性解放も推進したが、近代化を嫌うホメイニ師らのイスラム法学者や傀儡政権への国民の反発等でアメリカ大使館人質事件等が立て続けて起こり、最終的に国王は国外追放となった。以降米国との敵対関係が続いて来ていた。今回の旅ではテヘランのサーダバード宮殿で当時のペルシャ絨毯等の宝物を見たが実に華やかであったがイランの人達は敬遠しているとの事で、近代化の時代はたった2代だけで元のイスラム教国に戻っていった事が分かった。ちなみに現在は旅行者もヒジャブ着用が義務付けられていたので妻達も滞在中ずっと着用していた。女性の社会進出はまだまだとはいえ、学生も多いテヘランで大学生の7割が女性だそうです。 3・主に古代を偲ぶ旅行内容 ・テヘラン 考古学博物館では古代ペルシャの展示物が多かったがゆっくり鑑賞する時間不足でした。宝石博物館(イラン中央銀行の地下)では歴代王家のまばゆいばかりの財宝を見学した。 ・カシャーン 人口27万人の王の道(スーサ~ペルセポリス)沿いにテヘランから南へ約3時間のオアシス都市。欧米列強の圧迫下にあったカージャール朝の宰相アミール・カビールが更迭後に暮らし暗殺された世界遺産のフィーン庭園は噴水・池が美しくまだ眼に浮かぶ。バラの花も綺麗だった(バラはイランからイギリス等に拡がったとの事)し散歩は実に快適であった。有名なカシャーンの絹の絨毯は懐具合に関わらず見ると買いたくなるのが必定なので眼を瞑ってパスしました(トルコ絨毯よりこちらが本場だそうです)。 ・イスファハン 途中ピンクの石作りの家や石畳の続く素朴なアブヤーネ村に立ち寄り。おばあさん達が、凄い田舎なのに素敵なピンクのバラ模様のスカーフをしていて似合っていて土産にしようと見たらメイド・イン・ジャパンだったのでパス。この人口僅か数百人程度と思われる田舎村の洞に数名の若者の写真が飾ってあったので何か聞くと、皆1980年~88年迄続いたイラン・イラク戦争の戦死者を祀っているとの事で驚いた。 イスファハンはテヘランから南へ40km。古くから政治・文化・交通の中心の街だったが、16世紀末はイスラムのサファヴィー朝の首都として世界の半分と言われる程栄えた都市。まず創建8世紀のの精密なタイルの美しい金曜モスクから、広大なイマーム公園を一望出来るアリパク宮殿へ。素晴らしい細工を観ながら急な階段を上り、室内楽団もいた所を更に上るとテラスからの眺望は素晴らしかった。広大なイマーム公園は夕方には家族連れが芝生の上に輪になってゆっくり歓談を楽しむ光景が実にのどかでした。人々の日本人旅行者への好意も随所で感じられました。翌日もイマーム広場をゆっくり堪能。本当に広大で周囲にはトルコ石(本当はイラン産)やタイル、ラクダの骨に書いた細密画等多種類の伝統工芸品店が立ち並び時間を忘れて見入って回り何点か購入。決済はドバイ経由であまり歓迎されなかったがクレジットカードも使えました。イマームモスクの細工は素晴らしかったし、公園を一周する馬車も楽しんだり。イギリスのものと思っていたポロ競技も発祥の地はここイスファハンだったようです。是非再訪したい所です。 ・アクダ&ヤズド ゾロアスター教の街アクダ経由ヤズドへ。高いミナレットの金曜モスクを望んだあと、アーテシュキデで拝火教神殿で1000年以上燃え続けているという神秘的な”永遠の火”を観た後、鳥葬が行われていた沈黙の塔という丘を歩いた。イスラム教は本当は異教徒に寛容で共存してきたのが事実のようです。 ・パサルガダエ パサルガダエへ向かう途中のアバルクで樹齢4500年前の糸杉の周囲を散策。糸の名前が全く似合わない巨木ですが、掘り出したものでまだ半分は埋まっている状態との事で、実に若々しく感じる樹でその姿は眼に焼きつき忘れられません。 ペルセポリスの北東87kmにあるパサルガダエ。アケメネス朝・ペルシャ帝国の最初の首都であり、紀元前546年に、キュロス2世の手によって建設が開始された場所。大昔のキュロス2世のものと伝えられる墓には強い存在感があった。。 ・ペルセポリス 史上最初の帝国と言われるアケメネス朝ペルシア帝国の都。最盛期(リビアから中央アジア迄またがる大帝国)を迎えたダレイオス1世(ダーラヤーウ1世)が建設した宮殿群。クセルクセス1世、アルタクセルクセス1世等が実際に行政をした場所と言われている。山裾に自然の岩盤を利用して作られている広大な宮殿跡だ。今回は間近な森の中の大臣達も泊ったコテージ型ホテルだったので、初日はクセルクセス門から夕日が沈みゆく日没前と、翌日は早朝から大階段、クセルクセス門、百柱の間、謁見の間、東階段、ハディーシュと全体をゆっくり歩くのと2回も訪れる事が出来て史跡を満喫した。東階段の壁に描かれた当時の多くの属国群の民族毎に特徴あるレリーフが興味深く、往時の権勢が偲ばれました。 ・シラーズ 最後が南端にあり、詩人の街と言われるシラーズ。紀元前700年頃からの街だが、13世紀以降学問の中心地となり、詩人サアディーやハーフィズ、哲学者モッサー・マドラーらを輩出し芸術や文学が花開いた。一時衰退したが1750年、ザンド朝が起こると1762年にシラーズはその都となり、カリーム・ハーンは要塞や城壁、バザールなどを改修再建し繁栄を取り戻した。今回の旅行ではローズモスクに立ち寄った。小さいモスクだが名の通りピンクのモスクで内部もステンドグラスも風情があり印象に残った。 4.カタール シラーズからドーハへ飛び、夕方まで市内観光。ラクダ市場やパー・アイランド、ゴールドスーク、スーク・ワキーフ、イスラム芸術館、カタールアルジャジーラの本社前等を慌ただしく見物した。イランの古い歴史建造物とは一転して対照的過ぎる豪華な街が続く。7人に1人は億万長者という国だけあって物凄い繁栄ぶりだったが、ここは日中39℃と暑かったのと巨大なビル群や豪華なヨットが多数等別世界なのでちょっと馴染みにくいと感じた。夜ドーハを発って関空へ。 4.最後に 今年は2月にイスラエル旅行し今回のイラン旅行と併せ、あまり知らなかった世界に首を突っ込んだ1年でした。やっとイラン旅行について纏めたので次にまだ書けなかったイスラエルについて纏めてみます。私は数年前まで政治と宗教についてあまり深く関心も関わりも持たず過ごして来たが、この2つについて皆が少し真剣に向かい合う事が必要な時期に来ていると思う。 ・政治 湾岸戦争、イラク戦争、各国のアラブの春、シリア大内戦、イラン核開発問題は根底にパレスチナ問題と深く繋がっている事が見えてきた。湾岸戦争やイラク戦争で多額の資金を出して米国を支えた日本。戦争が続き財政難に喘ぎ出した米国。日本人の生計にも大きな影響を及ぼして来た。今後更に大きな動きが予想される。目先の利害にのみ捉われず、国際情勢も踏まえてキチンと正しく見て他人任せにせず関与していく必要がある。 ・宗教 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教。いずれも1神教で元々の神を共有しているようだ。それら同志の骨肉の争いの歴史と論理は今後も少しずつ理解を深めていきたい。八百万の神を祀る日本、靖国神社だけを特別大切にする人達もいて有力だ。仏教も葬式主体で僧の在り方にも疑問もある。宗教は無宗教も含め価値観の根底にあるもので、狭い道徳を一律に押し付けるのでなく、各個人が比較宗教学的に見比べて考えていく必要がある。 権力を握っている人達の専横で全てが決められるのでない、空気を読んで従うだけで無く、しっかりした考え方で草の根で繋がっていく時代にしていきたいものだとつくづく感じています。… [more]

イラン旅行と最近の中東情勢で感じた事 イラン旅行と最近の中東情勢で感じた事

ドルの弱まる時代。どう対応する?

<はじめに> 新聞・TVでも、アメリカの「債務上限問題」を報道したので、一般の日本国民もやっと「アメリカは大丈夫なの?」と感じ始めた。殆ど多くの人が「それでもアメリカは大丈夫」「債務上限額はこれまでもずっと何十回も上げられてきたので今度も問題ない」と考えそこで思考を停止し、これまで通りにその枠内で行動する。だが米国単独覇権が終わりに近づいていてサインが色々と出だしている事には無頓着だ。今の国際金融制度に代替する制度が明確化するにはまだまだ時間を要するが、近い将来大きな変革が起こる歴史的時代を迎えている事は確かだと思う。この事を指摘する著作・報道も少しずつ増えて来たが、今回はまず「オバマ発金融危機は必ず起きる」山広恒夫(ブルームバーグ・ワシントン支局)著に沿ってその骨格を主体に纏めて見た。 <今、草の根の日本人が認識すべき事> 米国ドル基軸体制に絡めとられた日本は米国の植民地同然になりつつある。どう対応すれば良いのか名案は無いが、まずは現状を的確に把握する事から始め自分の出来る範囲で対抗するしか無い。   1.大きな流れの基本認識 米国は「建国以来の第1合衆国銀行が創設された18世紀末を起点とする経済発展の長期波動の転換点に達して来ている」との認識が必要。 ①1971年・ニクソンショック=金ドルの交換停止でドルが現実の価値を失い、米国は基軸通貨国としての矜持をホントは40年余前で既に失っている。 ②1985年・プラザ合意。この時も日本を犠牲にして危機を脱出した。日本は失われた10年の時代に突入し、以来ジリ貧に。 ③2008年・リーマンショック(住宅金融のバブル化とその破裂)は「100年に1度」でもなければ、既に克服されたものでもなく、今後のオバマ発の本格的な金融危機の序曲に過ぎない事。 2.QE(FRBのニューマネー供給)の現状 オバマが推進したリーマンショック対策の金融規制改革法は「偽りの金融改革」だった。オバマは「ヘッジファンドのお友達」。FRBも大量のマネーを投入して金融機関を救済した。金融機関はただ同然で資金を調達して利益を上げ新たなバブルのリスクを世界中にまき散らしただけで、本質的な問題は何も解決していない。FRBや金融当局者は「精神の無い専門人」。物価指数やGDPの伸びが下方に触れるとデフレ恐怖症にかかり、ガソリン価格・教育費・医療費・交通費・食品・自動車&家屋の修理費等の大変なインフレを実感出来ず、一般の米国民や他国への配慮は全く無い人達です。 ①QE1(09.3~6ヶ月間)→FRBが米国債3000億ドル購入&住宅ローン担保証券MBSを1兆2500億ドル他、合計1兆7250ドルで金融機関を救済しリーマン危機をひとまず先送りし切り抜けた。 ②QE2(10.11月~11・6月まで)→FRBは6000億ドル購入&MBS償還金3000ドル購入。米国では豪華客船クイーン・エリザベス2世号だと大歓迎されたが、R.マンデルコロンビア大教授は本当は「世界経済へのテロ行為である」と言及した。バーナンキは「実態は米国の金融システム=ウォール街を力強くするウォール街限定の振興券」である事を認めていた。 ③QE3(12.9月~)→月額400億ドル購入。雇用市場が改善する迄。既に開始後1年以上経過しており、縮小観測もあったが縮小出来ず。取りあえず当面半年程度の延期と見る向きが多い状況。中国は米国債の持ち分を縮小する傾向である。サウジアラビアですらシリア空爆問題を契機に米国と距離を置き始めたようだ。もうどこも買い支えるのが難しくなりつつある米国債を日本だけがアベノミクスで買い増ししている異常な事態になっている。これは「基軸通貨の緩やかな減価政策」であり、21世紀の「米国版徳政令」であるといえる。この事を「長期的安定に沿ったインフレ」等と言って誤魔化して債務を帳消しにする構えでいる。しかも、この過剰流動性が世界経済を混乱させて来たし、今後も米国以外の国が混乱の影響を背負う事になるのであるが、米国は他国の痛み等我関せずの構え。 ニューマネーの供給だけで「最大限の雇用」を確保する等は夢物語に過ぎない。金融関係の雇用者が少し増え報酬が上がっても、利益至上主義に凝り固まった経営者は労働者の削減と賃金引き下げしか考えない。マンデル教授も「基軸通貨であるドル相場の下落は海外のドル保有者に税金を支払わせる事に繋がる」と警告している。 3.今後の展開予測の一例と日本の一般国民の対策 ワシントンのシンクタンクは債務上限問題は2014年2月7日まで引き上げられ今回はデフォルトを回避したが、この「非常手段は長続きしないだろう」。債務上限の新たな引き上げ期限が到来する時の債務上限は約6000億ドル増の17兆3000億ドルと予測。多額の税還付を行う時期と重なることもあり、次回の引き上げ期限は2014年3月頃迄しか延長出来ないのではないかとも言われている。ここを乗り越えるとフレディマックからの配当金の支払いも得て数4半期息がつけるとしているようだ。今後の展開について正しい情報を常に把握していく必要がある。 日本でも、金融当局に近い立場の人や既に優良な株式を保有している人達、それに自己資金を金融資産と投資資金とに厳格に区分管理出来てプロ顔負けの実力のある人はともかく、それ以外の一般人は日本政府&金融機関からのあの手この手の株式&債券購入への制度的誘いに負けず市場と距離を置き(今からの市場参入は、当面はまだ大丈夫でも、いずれバブル崩壊時に逃げ遅れて鴨葱の類になる公算が強い)価値観を問い直し物を大切にして、まだまだ多い無駄を省き、信頼出来る人達と連携して籠城するしかないだろうと考えています。… [more]

ドルの弱まる時代。どう対応する? ドルの弱まる時代。どう対応する?

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今では米国の有力な経済学者の殆どが、積極財政論者なのだ!(その3前半)

2013年01月19日
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(その2)第1章の要約の続き
「日本を滅ぼす消費税増税 」菊池英博氏著から抜粋。
現在の日本では、財務省&マスコミの嘘に騙されて「均衡財政が善」 で「公共投資は悪」と考えてしまう人が本当に多い。
これを正すのは大変だが、丁寧に論述を辿るしかないと思い各章毎に要約して公開する事とした。この見解の正しさを普及させる事が現下のデフレからの脱却、大不況の克服に資すると考えています。勿論著書を購読して理解してくれるのが一番良いと思います。

第2章 デフレ発生から15年、日本経済を検証する
-政治家と財務省が採った政策の失敗-

日本に蔓延する空言・虚言は続く

この章は1991年のソビエト崩壊後、米国の戦略の標的になった日本経済に起こった顕著な出来ごとを政策により明確に説明してくれています。

 ・デフレの原点は橋本財政改革
 現在の日本のデフレは1998年に始まり15年継続した長期デフレである。「1997年度から消費税を3%から5%に引き上げ、所得税の特別減税を廃止した事」と同時に「財政支出を削減し、5年後に財政赤字幅を名目GDPno3%以内にする事を法制化した増税緊縮財政で国民から13兆円の資金を奪いバブル崩壊からの復活を打ち砕いた。

・金融危機による信用収縮でデフレが始まる
→ 1992年から自己比率規制(BIS規制)を守る事を義務付け「8%以上の自己資本」を要求。大手銀行19行は株価下落に伴う自己資本減額分の12.5倍50兆円の貸出を回収しなければならなくなり、1年間に46兆円を回収し大幅な信用収縮を惹起した。
三洋証券・山一証券・北海道拓殖銀行等が破綻。

財務省は「粗債務」で財政危機と誤認
→一国の債務には「粗債務=借入総額」と「純債務=ネットの債務」があるが 国際的には両方の記載がある。しかし財務省がマスコミに「粗債務」しか発表しないので多くの国民は「政府債務と言えば粗債務」しかない」と思わせている。しかし
財務省がマスコミに「粗債務」しか発表しないので多くの国民は「政府債務と言えば粗債務」しかない」と思わせている。1994年に、日本の「粗債務」が80%の時、米国71%、ユーロ地域69%に比べ高かった。しかし「純債務」では日本が20%、米国54%、ユーロ地域43%より遥かに低い健全財政であった。財務省は海外向けには国債の95%を日本国民が保有しているから財政危機では無いと宣伝しており明らかに2枚舌である。「日本の財政は純債務で把握すべき。純債務で見れば日本は財政危機で無い」
→リーマンショック以降で見ても日本は世界一の純債権国なのでドルとユーロに対して円高が進んでいるのです。
→1997年3月、ゴア副大統領が来日、橋本首相に「日本は財政危機ではない。内需抑制策を取るので無く、内需拡大策を取るべき」と進言したが受け入れなかったのが、その後の米国証券会社の日本売りに繋がった。

小渕首相が危機を克服
→1998年7月参議院選挙で自民党惨敗。橋本退陣後、小渕首相は財政構造改革法を凍結し、同年10月の「金融安定化60兆円」金融機能早期健全化法案で金融恐慌を鎮静化した(菊池氏提案、亀井静香議員等自民党の議員連盟の議員立法によったもので財務省は反対だった)。株式の含み益喪失の大手行に公的資金を投入したのだ。1999年の大型補正予算で翌年税収は50.7兆円に回復した。

デフレを法制化した小泉構造改革
→小泉構造改革のスローガン「構造改革なくして成長なし」「公共投資は経済成長に寄与しない」は1980年代のレーガンの新自由主義による政治理念と経済政策である。主なデフレ政策は「財政は引き締め・金融は緩和」。「基礎的財政収支均衡策」「労働基準法改定で実質的に労働者の解雇自由」「時価会計デフレ」であった。

均衡財政政策の導入で財政デフレに
→「基礎的財政収支」は「税収・税外収入の範囲内しか支出しない」という均衡財政の考え方。1980年代後半レーガン、父ブッシュの「数値目標と期限付き均衡財政政策」は共に失敗だったのに。アルゼンチンを国家破綻させた政策でもある。
→日銀に金融緩和させ円安誘導し、輸出バブルを起こす政策だった。輸出企業と内需中心企業、大企業と中小企業、都市と地方、個人の貧富等あらゆる格差が拡大し、日本経済全体が弱体化する懸念が的中。2009年度税収は38.7兆円まで激減。国債の金額の方が多くなり、まさに「第二の敗戦」を迎えた。

何故均衡財政を導入したのか
→財務省が橋本財政改革の失敗を無かった事にしてもう一度均衡財政を法制化しようとした。「財政支出を削減すれば、財政赤字が縮小する(昭和恐慌の浜口雄幸首相)」という均衡財政の考え方が今でも財務省に残っている。この財務省の悲願こそ日本経済の体質に合わない間違った政策なのだ。昭和恐慌も米国大恐慌ももたらした政策である。
→子ブッシュが「日本の預貯金を日本に使わせず、余ったカネを米国債や対外投資に向けさせようとした」もの。
→公共投資と社会保障費を削減し、新規国債発行を抑え、金融緩和でデフレ解消が出来ると考えた。
結果2000年からの10年間で120兆円のカネを絞りだし、米国債を80兆円買っていると見られる。

3度目の基礎的財政均衡策が進行中
→鳩山首相はデフレ解消を優先しようとした。
→菅が2010年6月「2020年までに基礎的財政収支を均衡させる」と決定。野田も継承。消費税増税法案も議決されデフレが進行する。3度目が成功する可能性は皆無。


 



今では米国の有力な経済学者の殆どが、積極財政論者なのだ!(その2)

2013年01月08日
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(その1)はじめにの要約の続き
「日本を滅ぼす消費税増税 」菊池英博氏著から抜粋。
一度読んで、要点を抜粋しようと思ったが、現在の日本では均衡財政が善 で公共投資は悪と考えてしまう人が多く、これを正そうと思うと丁寧に論述を辿るのが良いと気付き各章毎に公開する事とした。購読してくれるのが一番良い。

第1章 日本は既に平成恐慌である
-均衡財政目標で経済が失速-

日本に蔓延する空言・虚言の代表例
デフレは人口の減少が原因である。
→「生産人口が減っている」というが、「ヒトが余って就職出来ないのが現状」
→「就職できても非正規社員が多く低賃金で喘いでいる」
人口減少には投資を増やして生産性を向上させれば全く問題ないのだ。
→ドイツは先進10カ国の中で最も人口増加率が低いが日本より遥かに高い成長率を示している。
→経済が成長すれば人口も増える。第2次大戦後のフランスはド・ゴール大統領が政治と社会を安定させ第2子から子供手当を支給し子供を社会的に共同して育てるという理念を国民に植え付けてきた。

新自由主義をもっと徹底させる構造改革が必要である。
→新自由主義で国民をこれだけ不幸にしながら、更に国民の富を収奪する意見である。
新自由主義の根幹には、人間性の否定があり、ヒトをモノ・カネと同一に扱い、必要な時に「安く買い」、いらなくなったら「捨てる」。
→新自由主義が日本人の心を砕いている。

公共投資は経済成長にプラスにならない。
→「小泉構造改革」の時に小泉・竹中が主張しマスコミが宣伝した文言。これが日本をデフレに追い込んだ。勿論無駄な公共投資は止めるべきだが。デフレ脱却の為、政府がリスクを取って投資をし、民間には投資減税の恩典を与えて民間投資を誘発するしかない。
新自由主義で米国がデフレにならなかったのは、軍事費という公共投資のお陰。
→「生活に直結した公共投資」でデフレを解消する方向を示し民間投資を誘発する政策が必要。デフレ解消は政府投資が決め手。

日本は財政危機である。
「日本は世界最大の対外純債権国」であり、円は世界中でもっとも心配のない通貨であると思われているから円高が進んだのだ。
財務省がいう日本の債務は「粗債務」(借入総額)であって、政府が保有している金融資産を「粗債務」から控除した「純債務」でない。
→海外では日本が財政危機だと思っている国はどこにもない。「対外純資産が250兆円もある世界一の金持ち国なのに、自分の国の為に自分の国の資産を使わないでデフレ政策を採っているから税収が減っているのだ」(愚かな国ではないか!)。
日本は財政危機ではなく、政策危機である」と思っているのだ。

緊縮財政を徹底すれば財政再建になる。
→「デフレ継続・成長放棄の増税」派=財務省・日本銀行・大企業・財界・連合。「デフレだと金利が低いので国債発行コストは低く抑えられる。デフレは継続した方がいい」という論拠。この派を支えている考えが新自由主義。これだと第2弾、第3弾の消費税増税が必要になる敗北思想だ。

・消費税を30%まで引き上げるのか!?これ以上の成長は出来ないから消費税を上げる。消費税増税以外に財源はない!?
→消費税増税→デフレ一段と進み税収不足→さらに消費税増税を繰り返す事になる。
→DEMIOSモデルでは消費税増税5%で名目GDPが5年で25兆~30兆円縮小する。日本の経済構造が破綻してしまう。
→日本が消費税導入した1989年から2010年までの21年間で消費税収入の累計は224兆円。法人税は減税(最高税率を40%から30%に引き下げ)とデフレ政策で208兆円の減収。2012年4月には法人税率30%から25.5%への引き下げを実行し更に1兆円減収に。これが「社会保障と税の一体化」の実態である。
→庶民から取り上げた消費税が大企業の利益となる仕組みなのだ。企業間格差、国民の所得格差も拡大する。こんなシステムでは財政再建等到底不可能である。

1973年、1979年の2度の石油危機後の安定成長は積極財政で実現した。余剰の預貯金を建設国債発行で社会的インフラの整備拡充に投資したて経済発展して来たのだ。日本の経済成長は「官民ベストミックス」といわれる「政府投資が民間投資を補完する」経済体質によってなされて来たのだ。しかし橋本財政改革で増税&緊縮財政で一気にマイナスに。小渕首相の景気対策で一旦回復したが、2001年からの小泉構造改革と2002年の「基礎的財政収支均衡策」で失速、デフレが深刻に、税収が激減したのだ。

過去10年間で家計部門の金融資産は114兆円も増加。国内で使用しなかった6兆円と併せ120兆円が海外に流出したのだ。つまり国内ではデフレ政策で資金を使わせないようにし、その7割に当たる約80兆円を米国債購入に充てた。これが小泉構造改革の真の目標だったのではないか。

第2次世界大戦後は「デフレは悪魔の仕業であり、絶対に引き起こしてはならない、人類はデフレと訣別する」ということが共通認識。日本の失業率は1997年3%台、1998年4.1%以降4~5%台で推移。ドイツは再就職後の賃金が半分以下なら失業継続と見做すがこの基準なら10%位だろう。非正規社員は200万円未満だから家庭を持てず子育てが出来ない。一方2010年の大企業の内部留保は総額461兆円。トヨタは2005年から2011年度の6年間で内部留保が9000億円増加。人件費は220億円減少

<参考>
国民の可処分所得の減少「大増税後の世帯収入別負担予測」
消費税増税前に毎年上がる厚生年金保険料、2012年給与控除の上限設定、子供手当から新児童手当への変更、復興増税による所得税増税が先行する。消費税増税を加えると サラリーマン平均412万円で合計負担率6.4%、金額で26万円の増税だ。
1997年の緊縮増税財政の時は政府が市場から13兆円吸い上げたが、今回はそれを上回る14兆円を超える負担増となる大緊縮財政となり、経済恐慌を引き起こすだろう。

日本は既に平成恐慌
近代資本主義に入ってからの長期デフレは、1925年に始まって1932年に終息した昭和のデフレと1929年10月に始まって1933年に終わったアメリカ大恐慌のデフレである。
15年経過した現在のデフレは20世紀以降の最長記録を更新中。累積デフレ率は21%に達している。昭和恐慌が始まったと同じ時点に来ているのだ。

官民共に投資不足、マイナス成長の原因
現在の日本では、政府投資(公共投資)が小泉構造改革以来ずっと減少。民間も政府も投資が回収超過となり、名目GDPを引き下げる要因となっている。・・・経済活動の根幹は投資であり、日本経済停滞の原因はこの投資不足である。政府投資は2007年から回収超過、民主党政権になって増幅。民間投資は2009年のリーマン・ショックによって輸出関連企業が激減。

デフレは金融緩和で解消出来る。
「循環型デフレ」であれば金利を下げ、金融の量的緩和をすれば投資需要が出て来て景気が回復する。しかし現在の日本は16年目のデフレであり、日銀が金利をゼロにして量的にも緩和しているのにデフレは解消せず。この間緩和した日銀資金は外資を中心とする証券筋が借り入れて、NY市場で株式や商品市場の投機活動に使われたのである。大きな需要不足と経済力の弱体化(供給能力の減退)が原因である事を示している。日本のデフレはまさに恐慌型であり金融緩和だけで解消は出来ないのだ。

(その3)恐慌型デフレを解消するにはどうしたら良いかに続く。



今では米国の有力な経済学者の殆どが、積極財政論者なのだ!(その1)

2013年01月05日
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「正しい積極財政」の理解者・支持者を増やそう

菊池英博氏藤井聡教授の論説を理解して広めよう-
 この2人のUstは必見です(クリックするとご覧頂けます)。 

菊池英博氏の「日本を滅ぼす消費税増税」の論説を理解する事が大切です。概要は以下の通り。

1.はじめに

2012.8月に成立した消費税増税法案は、法案の附則に「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という、いわゆる「景気条項」が明記されている事を知っている人は本当に少ない。また「2020年までに年平均経済成長率は、名目で3%、実質で2%程度を目指す」という数値目標も記載されているのだ。

私も含めた反対派の人達は「デフレ解消を優先して後述の政策を採れば税収が増加し、消費税増税なしで社会保障費も賄えるのではないか」 財務省を始め賛成している学者、マスコミが間違っている。歴史的にも証明されていると考えている。

「日本は世界一財源の豊富な国であり、財政危機は壮大な虚構であり、日本は政策危機である」「15年も継続している日本のデフレは、政府財務省が意図的に継続しているデフレ政策が主因、だから税収が増えない」「デフレ政策を転換し、経済を成長路線に戻せば、消費税を増税しなくても、高齢化社会を乗り切れる」

日本経済は既に恐慌型のデフレに陥っており、既に平成恐慌と言える段階に達している。これを克服するには、昭和恐慌や、米国大恐慌の教訓に従って、財政主導・金融フォローの経済政策を取り入れる事が必要。この具体的政策を提示する。

次の4点が大切。
①デフレによる物価下落は大資本・富裕層・官僚等の強者は利得があり継続したいもの。一方若者の就職難・中堅層の生活苦・高齢者の悲惨な状況が強まっていく。デフレは危険極まりない経済社会現象なので、デフレ解消に立ち上がる必要がある。

「デフレは人口減少が原因だから仕方がない」とか「財源がないから財政支出が出来ない」という世上の意見は全て間違っている。

今の日本のデフレは恐慌型デフレであり、金融緩和だけでは解消しない。

④日本の輸出産業は大きな転換期を迎えている。海外の消費者への販売は海外生産に委ね、国内は高付加価値製品生産の為の機械と技術の開発に集中すべき。減少する国内雇用は、内需の拡大、内需関連産業の育成強化、新エネルギーの開発といった具体的政策により吸収すべき。

高橋是清、池田勇人、田中角栄といった政治力を備えた政治家が閉塞感に満ちた日本を救うのだが…
安部政権になって金融緩和を打ち出し、財政出動も言及しだしている事が好感を持って受け止められている事は当然である。金融緩和だけに終わらせず、不要な箱物だけでないインフラ整備・更新等の大規模な財政出動が必須である。 それをしながら一時的に景気が好転したからと言って消費税増税を強行したら又恐慌が深くなっていくだけなのだ。この事を諦めずに言い続けます(続く)。



福島原発事故について-その7

2011年07月31日
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トルコ・アヤソフィア

「今抱えてしまった大きな問題点」のうち最後となる5番目についてです。

1.東電と政府の損害賠償責任について
2.福島原発放射線の影響と対策
3.福島原発事故の実態解明
4.日本の原発政策の本当の意義とは?
5.日本経済に与える影響と増税の可否

5.日本経済に与える影響と増税の可否

(政府は何故復興増税等という天下の愚策を強行しようとするのか?)

(1)根底にある増税の流れの背景

そもそも何故現在円高なのか?について簡単過ぎる理由を認めようとせず、国民に隠し通そうとしているのが財務省です。理由は只一つ米国財政が破綻の瀬戸際にあるという事実です。
(菅政権はほぼ100%官僚のいいなり政権で野田財務相等は知識も覚悟も足りな過ぎで問題外)

これは今ちょっとおカネが足りないという次元では無く、米国中心の「国際金融システムのシステミック・リスク」であり、リーマンショックで多くの金融機関が 破綻した後の深手がケタ違いに酷い事です。株式市場に大量の資金を投入して立ち直ったように見せかけて来たが、もうこれ以上の維持は難しく、本当の危機は これから始まるのだという事です。

リーマンショックで大きく傷ついたのは欧米であり、日本は比較的軽症だったのでもっと早い段階で円高になるのが当たり前だったが、欧米が一生懸命にお化粧をしていたので今頃顕在化しただけ。日本も苦しいが米国・欧州の方がより崖っぷちなのです。

日本が蓄えて来た1兆1378億ドル(2011.7.7財務省発表)の外貨準備高は中国に抜かれたとはいえ世界第2位の高い水準にある。この一部を売却し日 本の震災復興に充てれば良いと私達素人は皆そう思う。しかし米国の属国である日本の財政の実権はずっと財務省が握っており、彼らは米国に忠誠を誓っている 為か、決して米国債売却の検討を絶対に出来ない。このお金は既に米国に貢いだもので日本人はもう使えないと考えざるを得ないのだ。

888兆円もあっても使えないばかりか僅か10兆円程度の復興財源を全て増税で賄い公務員制度改革(公務員も身を切る)には一切手を付けさせないで国民に全て負担させようとしている。
こんな事は本来は許せないのだが隷米の自公政権やそれ以上に隷米を極める菅政権は米国の意向に決して逆らえないのでこの政権や亜流政権が続く限りやむを得ないのである。

(2)復興税→消費税増税への流れ作り

復興税の内訳は、まだ今後政府の税制協議会で詰めていく段階で詳細は未定。法人税と所得税の増税で広く薄く長くが基本方針のようだ。菅政権の言動を辿り、発 足当初から復興委員会の論議を見れば極めて明快だ。最初は消費税増税を自公と組んで強行しようとしていたが元々根強い党内の反発の上に、大震災に襲われ反 発が更に強まり復興委員会が当初予定していた消費税による復興増税の旗ををひとまず降ろし、当面は法人税と所得税増税で繋ぎ、2010年代半ばに消費税増 税に切り替える腹積もりのようだが今度は財界が反発しており予断を許さない状況が続いている。
日本は1990年代初頭のバブル崩壊以降、原材料の高騰や中国・韓国等手強い競争相手の出現等で貿易等の薄くなった利 幅をコスト削減により凌いで来た。とりわけ人件費を非正規雇用に切り替える事によりより圧縮して利益を拡大してきた。この為国内の貧富の格差が大幅に拡大 している。  ここにリーマショック、東北関東大震災と続いており、ただでさえ困窮しているのに更に消費税増税すれば多くの低所得者の生活困窮に止まら ず、消費減退→失業増大→大不況の到来→社会の大混乱→本格的衰退に繋がっていく可能性がある。

しかし増税が小規模に止まれば秋以降当面は震災復興需要により景気を持ちこたえる事が可能となろう。

(3)増税の前提条件=公務員制度改革先行が必要なのだが…

日本が官僚主権国家だという事はある程度言われて来たが、今回の福島原発事故発生以来その実像が次々に明らかになって来ている。皆が官・政・財・学・報複合 体の利権構造のあまりの強固さ、複雑な絡み合いを知る事となり、その力関係や仕組みが連日twitterやブログ、書籍でより詳細に多くの人達に知れ渡っ て来た。

とりわけ経産省と東電・学者・マスコミによる原発事故原因報道の隠蔽、放射能拡散状況の隠蔽、低線量被曝の危険性隠し、計画停電等電力供給不足煽り、反対者 への圧力強化等でひたすら原発稼働再開に繋げようとする強引さは、連日連夜全て多くの国民がはっきりと目にした事である。
あらゆる手段を総動員して現行体制を守ろうとする姿勢に、彼らに対する恐怖感・警戒感もさる事ながらある種の哀れさが漂うと言ってよい。もう何も見えずに権 限を振り回せばこれまで通り乗り切れると本当に思っているのだろうか。保安院のとかげの尻尾切りだけはやむを得ないと諦めたようであるが。

今や日本人でゆとりが残っている層は縮小しており各分野の一握りの成功者以外残っているのは公務員だけである。この人達が全く自分達の身を削らず、あらゆる利権は手離さず、国民のみに負担を強制する冷酷な人達である事も連日明らかになってきている。

年金原資の行方も話題になりだしている。少子高齢化で社会補償費の抑制も必要だ。制度改革や消費税増税もいずれは避けて通れない課題なのかも知れない。しか し財務省・マスコミの財政困窮キャンペーンは国の資産を無視し負債のみを強調したあまりに幼稚なPRである。もし財務省・マスコミのいうような危機的状況 ならもうとっくに円の暴落になっている筈なのだ。事態は全く逆な事はもう知る人ぞ知る状況で、騙しはもう効かないのである。
将来消費税増税が必要でも、その前に国家公務員の待遇切り下げが先決・必須条件なのでありこの問題を実行出来る内閣の実現が求められるのである。

(4)米国の日本支配進展の深刻さ

ソ連崩壊後米国のターゲットは日本になり、年次改革要望書によって日本経済を支配下におく戦略が続いてきた。2000年以降行き詰まった米国はイラク戦争等 で打開を図るが、逆に更に財政困窮が深まって来た。今は財政再建を福祉切り下げでやるか富裕層増税でやるかで揉めている。軍事費削減は二の次のようだ。

急増する米国債の買い手は中国と日本だけだったが中国も歯止めがかかり、米国財政の破綻を避けるため日本政府への圧力は私達の想像を絶するレベルである事だ けは想像がつく。これに軍事的面からの圧力もあるとしたら私達に対抗手段はあるのか?核の存在が噂される基地と潜水艦に国土を占拠され、日本の実権を握る 財務・外務・防衛・法務・経産官僚全てが日本の首相より米国の意向を重視して揺るがない事務次官に率いられているとすると事態は深刻を通り越しているのかも知れない。
福島原発事故の収拾が事故当初早い段階から米国高官によって指導(実質的には指揮?)されているという情報も人口に膾炙され始めている。

結局日本は米国債の買い支えとドル暴落・円高による債券の価値の大幅減少に見舞われる事は避けられない状況になって来ていると思う。

(5)今後の東電存続の形態と電気料金について

それにしても総括原価方式とは凄い制度だ。これが資本主義である訳がない。コストが高ければ高い程利益が上がる制度なのだから驚きだ。原発投資も大きければ 大きい程いいし、政府・マスコミ・地方自治体への各種支出も原価に入るので接待も広告も懐柔策も手厚くやればやる程利益が上がるようだ。東電も経産省も御 用学者もこんなうまい構造を手離すまいとしてあらゆる抵抗を繰り広げるのも当然だろう。この点はまだ改善論議の俎上にも上っていない。

原子力賠償責任法の修正案(原発の損害賠償支援機構法案)も損害賠償を国民に押し付け国費を無制限に投入して東電の存続を守る仕組みであり本当に許し難い内容だと思う。しかしこの内容はあまりに理不尽である為このまま成立してしまうと不公正過ぎ歪みが大き過ぎていずれ損害賠償や投入する税金の大きさに耐えかねるなど社会に混乱が起きるだろう。

個人的には電気料金を勝手に値上げすれば自衛手段を講ずるしかない。これ迄電力消費が贅沢過ぎたので節電余力は大きく、家計の健全性維持の為にも節電で電気料金を削減する動きが強まるだけだ。いずれ送受電分離や蓄電・自家発電・自然エネルギーへのシフト等で吸収可能で何とか負担増を避けていけるのではないか。

(6)終わりに

Twitter やブログの内容を監視して統制強化を図ろうという経産省・資源エネ庁の試みは失敗に終わるだろう。巨大利権構造と高待遇に安住して来た人達の知的レベル・ 総合的能力が相対的に低くなり過ぎているからだ。採用も偏差値と従順さ血縁でしているようだ。社会の前線で生存を掛けて闘っている人達や各分野で才能を必 死に磨いている人達、豊かでなくても生活確保に命懸けで努力している人達の研究心、身につけたスキルの方が遥かに貴重だと思う。この人達の力を甘く見て、 ただ税金や各種公共料金を絞り取る対象と考えているだけではそうはいかないだろう。

強権で統制・規制と分断を図る官僚達と実態に目覚めた多くの国民の力が結集されて対抗出来るのかどうか毎日見極め乍ら、結集に向け少しでも力になれるようにしていきたい。

尚、 ここではあまり触れなかったが日本のマスコミ情報では「米国経済・軍事・社会の実態について」正しい情報が不足し過ぎている。これからの一両年の米国の動 向は日本に多大な影響を及ばすので激動の方向性・その原因を正確に把握する事が本当に重要な局面になって来ているので心していきたい。

以上



発展中国と好対照の隷米で収奪される日本

2010年11月04日
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私は最近日本の完全属国化を強要する米国嫌いが強まる一方で、それに対抗する極になる実力を備えて来た中国への関心の深まりが顕著になってきている。自立した日本であるにはどうしたら良いか考えると米国一辺倒からアジア重視に軸足を移していく必要があると思う。

<TPP問題>
TPP加盟問題が浮上している。ASEANで菅首相は検討するとシンガポールのリーシェンロン首相に表明したそうだ。クリントン国務長官に前原外相がハワイに呼びつけられて命じられた通りの事だ。この二人の関係を見ていると、つくづく厭になる。挙句の果てに前原は農業はGDPの1.5%だから重要では無いと言い出す始末だ。郵政民営化も改革案が一向に論議されず、前原はクリントンから小泉時代に決めた通りに早くやりなさい!牛肉の輸入再開も早くしなさい!と命じられて「ハイ!わかりました」とだけ答えているようにしか見えない。
とにかく菅も前原も米国のいいなりなのである。国内のコメ農家に与える影響をどうするのかを充分検討してからという発想が無いのが信じられない。Yes Sir(Mam?)!から始まるのだ。こんな姿を毎日見せつけられて厭にならない人は、「米国の100%手下の特権官僚やマスコミ」と同様に自立した日本人では無くなっている事を自覚したほうがいい。
とにかく農家の保護が重要である。今後のTPPの推移を見守りたい。

<中国の勢い>
胡錦濤首席も温家宝首相も米国に対峙している国のトップとしての風格がある。米国の言いなりで無く巧みに強く対抗しているので日本の隷従振りと違い、貫禄も人間性も強く感じ取れるのだ。日本への対応を見ると、米国以外には中国に対してさえ尊大に振舞う前原外相を嫌っているのは当たり前だが、それなりの大人の配慮を残して対応してくれている。
中国経済は2010年GDPで日本を抜いたと言われているが、この数字はあくまでも白の部分(表に出せる数字)での比較であるようだ。灰と黒の表に出ない賄賂等の経済を入れると既に遥かに上回っていると言われる。旅行者として一端に触れる範囲の印象では、それが本当だろうと感じられる繁栄ぶりだ。クリーンでないくせにクリーンを連呼する国とは大違いのおおらかさだ。
今年訪れた、上海も深センも香港も大連も、その発展振りは目を瞠るものがあるのだ。
文化大革命時代の大変な出来事や、共産党独裁による格差や、人権の抑圧、自由の問題や環境汚染等の多くの矛盾はあるのだろうが、日本人に対する感情が日本のマスコミ報道とは大きく違っている事は中国人と直接触れ合った事のある人なら分かっている事と思う。大部分の人は友好的だ。一部の反日デモはあるが日本の在特会や統一教会等が行うデモが多くの日本人の感情を代表していないのと同じ事なのだ。

<今後の国際経済の動向の軸は米中関係>
米ドルの下落は80円を切り75円に向かう事は日本の輸出企業も観念して対策を打っているようだ。米ドル札はリーマンショック以前に比べ2倍程度になっているという。単純に考えれば1米ドル50円になってもおかしくないのだ。これまで中国が米国債を買い支えて来たが、中国は投資先を日本やいろいろな所に投資先を変えようとしている。この米国と中国の攻防が毎日の国際政治経済を見る上で最重要事項なのだ。日本は未だに中国に次ぐ外貨準備を持ってはいるが、それは米国から見ればどうやっていつ奪うかの獲物であるに過ぎない。日本は自立した政治力は殆ど失ってしまっているのだ。

<反消費税・反戦活動の重要性>
とにかく現政権が強行しようとしている消費税増税が齎す国民の疲弊、不況の到来、格差の一層の拡大は極めて深刻な事態を招来するだろう。消費税増税・法人税減税は配当を増やし欧米株主に差し出す貢物なのだ。
なし崩し的な軍事行動の拡大は、憲法9条の有名無実化の完成に近付きつつある。米軍の指揮下で世界中どこでも一緒に戦争をやろうとする日本を目指した菅政権。どう歯止めをしていくのか?
表面的には前原外相が駐ロシア大使を呼びつけて又すぐ追い返す等威張り腐っているが、内実は外務・防衛官僚が実質全てを取り仕切っているので政治家の力は全く無力化しつつあり、小沢氏の政治力後退で、米国・官僚による日本の軍国主義化が急進展している段階だ。

微力でも反消費税・反戦活動は重要だ。この事を言い続け、特定の政党に支配されない草の根の活動・連携が重要である。仙谷がネット規制へ乗り出してくる等の強力な切り崩しが始まるであろうが毅然と対峙していく必要がある。ひとりひとりの行動が大切になって来ている。



「財源はいくらでもある!消費税増税は反対!緊急国民財政会議」

2010年07月05日
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7月4日(日)午後1時から4時(予定時間を延長)
於東麻布。参加者約70名。
経済アナリストの菊池英博さんと岩上安身さんの掲題の会議に参加した。
やりとりの詳細は参加者の一人が纏めてくれていますので是非ご覧下さい。

http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10581753057.html
You-Tube(当日配布された資料も)でもご覧になれます。

当日の内容で重要と考えるポイントを整理してみました。

1.「日本財政」ほど歪曲されているものはない。
1995年が発端で96年の橋本財政改革の閣議決定からずっと財政危機が叫ばれ続けて来たがあれから15年たったが「狼」は来ない。その時点から財務省・自民党の財政の判断は間違っている。これが原点。
今日のポイントは財政について正しい態度を持つ事。何故「税収が上がらない経済になったか」が本当の問 題であるのに未だに「税収が足りない、狼が来る」と怯えている。
一時小渕内閣でムードが変わったが、2001年小泉構造改革で緊縮財政・デフレ政策になった。

2.日本は粗債務ばかりが表に出る。
海外は粗債務と純債務と両方で見る。オバマは純債務で説明している。日本程この2つの差がある国は無い。

3.GDPデフレーターの重要性
景気には消費者物価とGDPデフレーターがある。名目GDPとは個人では額面給与、会社だと税引き前利 益に当たるもの。世帯の給与は100万円減っていて、12年続いている。

4.「税収が減った要因」
(1)緊縮財政
緊縮財政の中身は2001年~2009年で60兆円召し上げた事。内訳は公共投資13兆円、地方交付税交付金47兆円。デフレで緊縮財政を絶対にやってはいけない。アメリカのフーバー大統領と昭和恐慌の(大失敗の)歴史を知っていればこんなことはしない。

(2)金融3点セット=ペイオフ・時価会計・減損会計
時価会計で土地担保の際、地価が下がれば貸出はもっと下げざるを得ない。フーバー大統領はこれで失敗し、ルーズベルトは「緊急銀行法」を発動し時価会計を適用停止した。この条例が60年間93年まで続いていた。米国は「フーバーは最悪」と小学校から教えられる。だから絶対にデフレにしない。それと日本だけ銀行に自己資本規制比率(4%)があるが海外にはない。それで日本は信用収縮が起こり銀行が金を貸せなくなっている。

(3)リストラデフレ
2002年の労働法改悪で経営者は説明すれば自由に解雇出来る事になった。(こんな酷い法制は)日本以外では米国だけである。 戦前の日本ですらそんな事は出来なかったのに。非正規が1/3になった。 年収200万円では結婚も出来ない。

以上3つで社会構造が崩壊したから税収が上がらないのである。

5.財政出動は財政赤字膨張の原因ではない。(むしろ改善の為の良策であるのだ)
2003年までの財政出動は120兆円で真水は40~50兆円であった。それによりGDPの押し上げ効果は100兆円。財政出動をしなかったらもっと酷かったのである。
菅首相がギリシャとの比較をしたがギリシャは国内で賄えずに8割が海外。方や日本は預貯金も豊富にあリ、国内消化率も高い(94%)。この基礎的条件の違いを勘案せず単純に比較するのは一国の首相が言うべき事ではない。(経済規模も1/20)
更に日本は267兆円の純債権を持っており10~15兆円の利息収入がある。ギリシャは逆に利息を払っている。日本は貿易収支も黒字だがギリシャは貿易収支も赤字である。
この所得収支と貿易収支の黒字をいかにして日本経済の為に使うかなのだが、この10年間使っていない。
100兆円が召し上げられて海外へ行っている。この額は小泉構造改革からの60兆円と米国債を買った40兆円と見事に合致するのだ。

6.国税に占める法人税・所得税・消費税の割合
1989年~2009年の消費税税収累計は220兆円。法人税の同じ期間の減収分が200兆円と歴然と消費税が法人税を穴埋めしているのだ。菅首相がブレたかどうかわからないが、消費税とはそんな簡単に上げられるものではない。4年間消費税を上げないと皆が思ったから政権を取ったのだ。それを覆すなら「国民に約束しただろう」と申し上げたい。

7.消費税以外で税収を上げる方法
(1)埋蔵金
「今ある財源」と「経済を成長させていく財源」の2つだがまず今ある埋蔵金一覧を見る。(前田由美子さん分析のもの。日本医師会のワーキングペーパーから。HPもある)2007年度剰余金は42.6兆円ある。
一般会計81兆円の純支出は教育・防衛・公共支出へ。残りの6割は特別会計へ支出される。特別会計には独自に国債・借入金等があり保険料もこちらにある。
併せて209兆円でここからの歳出が168兆円。
★ここに剰余金が42.6兆円!2007年度に剰っている金額であり「財政は黒字」なのだ。
税収51兆円 、国債25兆円、他8兆円。凄いトリックがあるのだ。つまり一般会計と特別会計を同時にみると07年度日本の財政は赤字でないのだ。 この特別会計(07年度)の42.8兆円の剰余金は積立金・翌年繰越・一般会計で1.9兆円回している。09年度は税収が大幅に減って埋蔵金を使ったがそれでも15.9兆円の剰余金が出ている。
決算後の積立金は68.9兆円あるのだ。繰越金と合わせると102.5兆円である。2009年度減っても70兆円位はあるだろう。それもこれは表面に出た数字であり、運用益だけでも2~3兆円あってこうした埋蔵金をどうするか。この中には労働保険等どうしても置いておかなければいけないものもある。
決算委員会で分析して欲しいと菊池さんから民主党には伝えているそうである。

<特別会計=国家の投融資活動の事である。>
その内訳はどうなっているか。(2009年末現在) 粗債務872兆円のうち特別会計分が295兆円で、その原資は国民の預貯金である。
この295兆円のうち185兆円は財政投融資であり政府系金融機関(政策投資銀行、国際協力銀行、沖縄復興金融公庫)を通じ企業・個人・地方自治体・外国政府に融資していて、もちろん元利は返済される。
残り110兆円が政府短期証券(1年未満で返済するもの)である。この政府短期証券を外国為替資金特別会計を通じて1999年10月から日銀が買い取っていた(ここでは財務省の代理人役)。日銀は米国債購入(80兆円位)と日本の大手銀行(三大メガバンク等)に預金する(彼らが借り入れ人なのだ)。このお金が米国政府と預金受け入れ銀行に95兆円ある。
つまりこれは国民の債務ではないのである。(借入人の債務なのだ)これを政府の債務に入れて消費税を上げる理屈は成り立たないのである。 更に外為特会に積立金、剰余金、繰越金(これらが埋蔵金)が存在するのである。

★国の債務は額面で800兆円余あるがそのうち300兆円は国民の債務ではない。又積立金は200兆円あり、まだ増えているかも知れない。更に社会保障基金が200兆円ある。

(参考)米国の経済政策の推移や日本の成功例等の歴史に学べ
日本は今名目GDPに対して粗債務の比率が高いから危機というが名目GDPが縮小しているから高くなる。債務の増加を上回る成長があれば良いので、それを実証したのがクリントンで、オバマもやろうとしている。日本はずっと米国共和党の政策を取り入れているが米国民主党の考え方を取り入れるべきなのである。
レーガンは「ネオコン」と呼ばれる人達が、フリードマンの新自由主義・市場原理主義を取り入れて法人税(50%→28%)所得税(70%→31%)を引き下げ企業と富裕層優遇をして債務国に転落した。
ポイントは小さい政府、規制緩和、自由化により「双子の赤字」が生じ1995年に債務国に転落した。共和党政策は小さい政府であり国民の税金から社会的に教育や医療に渡す分も少なく、税を安くするので一番得をするのは富裕層と法人である。盛んに言われた「トリクルダウン」や「ラッファー曲線」とも理論としては成り立たなかった。その後のパパブッシュの増税もうまくいかず失敗、再選されなかった。
クリントンはルーズベルトの政策をベースにして政府支出(公共投資、地方、教育に重点投資)で民間投資を引出し8年間にわたり有効需要を喚起し8年間で財政黒字化した。法人税(28%→35%)所得税(31%→39%)にして中小企業には投資減税、低所得層には控除を増やしたので5年で財政赤字を解消し子ブッシュが出た時は財政黒字が3000億ドル位あったが、子ブッシュが又レーガンのようにさげてしまい2008年末アメリカ経済は破綻したと思う。
オバマが又法人税・所得税を増税し、所得の再配分を控除の仕組みの中にいれた。今、緊急で2年で100兆円を投入している。亀井さんは3年で100兆円を推奨している。

日本の民主党にお願いしたいのはアメリカ民主党政策をもっと取り入れて欲しいという事だ。経済学は難しい学問ではない。どういう時にどういう政策を打ったら良いかは歴史が教えてくれる。アメリカ大恐慌を解決したのはルーズベルト(1933年3月3日に就任)。ケインズ(一般理論出版は1936年なので)から学んだ訳ではない。
一方日本の1930年からの金融恐慌には高橋是清が財政金融一体化で解決した。世界で最初に恐慌から脱出した成功した歴史がある。

(2)成長戦略
財源は2通りある。公務員改革も大切だがその前に、
現在の余剰金を国家に返納し財源として建設国債も発行出来る。
米国は30年代の不況時に高速道路や地下鉄等社会インフラを整備した(NYの地下鉄は都心から60Km、それも複々線で走る)。日本は通勤地獄解消も必要。病院の整備も米国はキチンとやっていた。クリントンの時代に鉄道を強化している。オバマも最近新幹線を作ろうとしている。
経済は民間だけで難しくなると政府が手を出す必要がある。それを3~5年、10年計画でやっていき、地方も強化する。
★小野善康教授の増税して成長分野に等の説は政策面を良く知っている人は賛成しない。消費税増税なら大間違いで成長なんかに繋がらない。消費税増税が成長に繋がる訳がなく国民の所得を奪って政府に付け替えるだけだ。
米国では1932年にフーバーが失敗している。石油税・ガソリン税が効き1929年に比べ32年は所得は半減し、株価は9割減となってしまった。菅首相のいうように集めて返しても集めた効果(悪影響)の方がずっと大きい。総選挙後そういう事は常識的にもやらないんじゃないか。だんだん歴史に学ぶ賢者が出てくる事を期待したい。

G20の共同声明で日本だけが財政健全化対象外にされた意味は、
★IMF理事長が「日本には財政危機という兆候が無い」と見ているからだ。
世界的流れからいって債務圧縮はこのままうまくはいかないと思う。リチャード・クーがニューズレターで「ヨーロッパ各国で財政を引き締めるとマイナス効果が大きい。ユーロの価値にも影響する。この際政府債務を増やしても雇用を」といい事を言っている。アメリカの財務長官は「緊縮でなく景気振興策」をと言ったそうだが、そう思う。

日本も民主党が割れるかという心配とは別に事実に基づく適格な政策判断が出てくると思う。消費税はアレルギーも強く悪影響も大きく実施出来ないのではないか。法人税引き下げにも反対だ。
クリントンやオバマのように需要喚起とともに最高税率を上げる必要がある。法人税引き下げは国際競争力を上げる為というが、既に十分競争力があるから輸出超過になっているのだ。★消費税の問題点の一つは、輸出大企業は輸出すれば税金が還付される。50%輸出とすれば減税され利益になるのだ。
経団連の大企業役員が株主総会で従業員還元したいといったら、そうでなく株主配当にしろといわれたらしい。
★基礎年金の税方式を言っているのも外資である。
企業では半分が企業負担であり全体で4兆円負担している。外資は配当金を増やし社会的コストを下げさせようとするので基礎年金を税負担にすると企業負担がなくなるのである。この「税方式」は経団連と経済同友会が主張している。

「私は決して反米ではない。米国が好きだ。米国はマスコミの議論も日本より数段進んでいる。NYTでクルーグマンが毎週ブッシュ政権を批判していたのにノーベル賞を貰っている。米国には議論を戦わせる余地がある。「日本のマスコミはまさに北朝鮮なみ」で台湾・韓国が遥かに上と欧米から言われているのである。

8.他のゲストの話
臨席の二見伸明元大臣は消費税が3%から5%になった時、消費税分は4兆円増税になったが、税収全体では2.7%ダウンした。それが原因になっていまに続いている。簡単に上げてはいけない。税制の抜本改革というがこれまで何も抜本改革されていない。政権が替っても官僚が替っていないのが問題だ。
名古屋から来た荒川税理士は、菅首相の言う低所得者対象の戻し税はまず導入してから対象を絞り込むだろう。かつての簡易課税もそうだった。又納税者番号制の問題もある。還付するために番号をつけると言ってくる。大変な手間がかかる。複数税率にしても食料品非課税(軽減)ならレストラン経営者は?など不明確な所が多い。

9.参加者の質問
<郵政民営化についてのご見解は?>
最初から反対だった。野口悠紀夫さんは「民営化はアナクロニズム」としていた。元々米国からの要望で94年のクリントン時代から規制改革要望書が出ていた。
この300兆円を民に回して活性化というが完全に間違っている。小泉構造改革の議論をしている時、民はお金が有り余っていた。使いようがなかった。2000年~09年で民間銀行の貸出は国内で50~60兆円減って、海外は90~100兆円増えている。主としてメガバンクが地方から貸し剥がしをして、海外に持っていかざるを得なかった。05年頃から激しくなった。国内はデフレ政策で海外に貸出した。要するに大前提が間違っている事が立証された。
★郵政民営化の実質は「官から民へ」でなく正しくは「民から海外へ」というべきであろう。
亀井元大臣は 「米国債は買ってあげるが、ちゃんと表から言って来て」と言っていたし、仙石に対しては「2周遅れ」と 言っていて、なる程と思ったとの事。

郵政改革法案の民主党案は原口案で大塚副大臣の所で10回以上検討して議事録もある。「生活が第一」なら国内で使わなくては。地方にはハブ空港もない。社会基盤の再構築が必要である。菅首相も「社会基盤が充実すれば豊かになり税収が上がる」と言った。この元は神野直彦氏の「分かち合いの経済学」でありこの本は必読書だ。

<みんなの党は郵政資産を売却すると言っているし、又政府紙幣発行を主張しているが?>
政府紙幣発行は尋常な考えではなく反対。歴史的にも混乱するだけだった。一方日銀が国債を持てばただで発行出来る。
昭和恐慌の時国債を発行し日銀が買い取っていた。これは即効性があり金利は半分に。
米国大恐慌の時は政府が新国債を出し、FRBが市中の既発債を買い上げ実質引き受けしていた。金を持っていた事もあり14年間短期・長期金利の利回りは変わらなかった。

★日本も100兆円の補正予算を組んだら良い。
1999年9月までは政府短期証券は日銀が買い取っていた。今は政府短期証券100兆円を市場で金融機関が買って外貨準備になっている。だから国内に金が回らない。米国債は現実には売れないのでこの100兆円召し上げられて国内で回らない。この預貯金を原資に建設国債を発行し日銀は市中の政府短期証券を買えば帳尻があって預貯金が建設国債に回る。これで1999年の前の姿に戻る。
金利は日銀と明約を結んでおけば良い。2月23日日銀総裁と会ったが政府が有効需要を喚起していくのは政策上可能としていた。
デフレの時財政を絞めて金融だけ緩めるのが小泉・竹中の悪さ。金は投資銀行に集まったが10年経ってもデフレは解消しない。日銀が金融を緩めると良いというが有効需要を喚起する政策が無ければ海外に行ったり博打になったりするだけだ。日銀が慎重なのはかってのマネタリストの失敗があるからである。

<学習会の出前要望?>
貧困について活動しているが、経済について分からなくて貧困が続く。これで消費税が10%になったら殆どの人が死んでしまう。国民会議を出前して下さい。

<給与を増やすのに財政政策が使えないか?>
自見議員(今金融相)が3月4日衆議院予算委員会で韓国では正規職員を雇ったら税額控除を検討していると言っていたが韓国の国会を通ったようで菅首相も検討すると言っていた。

10.クロージング
大学で教えていると若い人は未来に失望している。その根本は緊縮財政にある。日本は金持ち国家で267兆円も貸しているというと「そんなの初めて聞いた」と言う。みんな日本は借金国だと思っている。
マスコミは対外債権国だと一切書いていないのが大問題である。「そんなにお金があるのにどうして日本で使わないのか」国債だってちゃんと発行すれば良い。政府が潰れないやり方はいくらでもある。
政府投資でデフレ解消、非正規社員を法律で全廃がいい。亀井元大臣も郵政で正規社員を増やそうとしている。2000億円かかるが安いものだ。結婚も出来るし、消費もする。住宅もでしょう。税収があがらないのは非正規が増えている為なのである。

ここからは私の意見・感想です。
今回約3時間の会だったが菊池先生の見解を岩上さんがうまく引き出してくれて、時宜を得た密度の高い会議になっていた。これまで先生の「消費税は0%に出来る」の著作と、岩上さんとのYou-Tube は見ていたが、生でお話が聞けて 本当に認識の度合いが深まった。又、日本と米国の財政の関連と郵政資金の関連について質問させて頂き実に懇切丁寧な回答も頂き感謝している。

★この内容はとっつきにくいかも知れないがそんなに難しくない。多くの心ある人達がこの問題をキチンと理解する事が日本の将来にとって本当に重要だと思う。

私は今の菅首相の消費税増税に関する発言に強い憤りを抱き、このまま菅内閣が続いたら参議員選挙後早期に解散し消費税率アップを言う自公やみんなの党と結託して消費税率を上げ、日本の中小企業・低所得者・年金生活者等に取り返しのつかない打撃を与えると強く危惧していた。その悪影響は利益を得るかに見える既得権益者達にもいろんな形で及ぶ事になると思うのだが。
しかし菊池先生はもう少し 日本人全体の資質に信頼を置いておられるようであり、消費税増税は簡単には実現しないと見ておられた。もしそうだとすると嬉しいのだが、このまま傍観していれば良い結果にはならないと思う。

★私は自分の知識レベルの確認も兼ねてブログを立ち上げたばかりであるが、この内容は出来るだけ多くの友人知人に送信してみようと思っています。



日本の財政は国際対比では健全でまだ危機ではない。

2010年05月09日
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 最近YouTubeで岩上安身氏による菊池英博氏へのインタビューを見ました。20余のパートに分かれて合計2-3時間もかかり2日に分けて視聴しました。菊池氏は09年7月「消費税は0%にできる」をダイヤモンド社から出版しておりそれを読んで心から共感していたので、改めて国民生活の基盤である日本の財政状況や税制について大切な基軸を再確認させて貰える良い企画でした。

<インタビューと著書のポイント>()内は私の追記分です。

①消費税引き上げは外国人投資家の要望に添った「法人税引き下げ」のためであり、決して「社会保障」充実のためではない。消費税導入後通算で200兆円を徴収したうち「法人税減税」に約150兆円回しているようで、米国の要望に添って投資家への配当が厚くされただけなのである。   (そして社会保障は小泉構造改革でむしろ減額の対象にされて、庶民や高齢者の生活を直撃したのはご承知の通り)

②国の債務は「純債務」で見るのが国際的な常識なのに財務省は意図的に「粗債務」で日本の財政が危機的であり財源が不足だと嘘を言い続けてきた。粗債務のみ見れば巨大だが、そこからから資産を引いた「純債務」で見ると日本の財政はまだまだ健全なのである。              (それでも危機ラインは大分近づいてきており要警戒レベルであるが)

③経済政策は1930年頃の大恐慌やそれ以降の歴史に学ぶべきである。当時の日本政府のとった金解禁や、橋本行革、小泉構造改革の失敗を繰り返してはいけない。日本復活の為には市場原理主義を一掃し、基礎的財政収支均衡目標と金融行政3点セット(ペイオフ、時価会計・現存会計、自己資本比率規制)を凍結・廃止して「輸出大国」から「社会大国」に転換すべきである。

以上の要約では足りないので、豊富な内容をより詳しく正確に理解する為是非YouTube(http://www.iwakamiyasumi.com/)と「消費税は0%にできる」(まだ3万人しか読んでいないらしい)をご覧下さい。

<私の意見>
この①-③の3つを日本の常識にしていきたいと思う。米国資本や経団連・同友会にのみ忠実で未だに誤った新自由主義の影響下にある財務省に騙されてはいけないのである。消費税増税が許されるのはいずれ景気が回復し高級官僚の天下り特権等の公務員制度改革がある程度実現して、社会保険料も税金の一部と見做して国民負担の本当のレベルを正しく国際比較した上で、食料品等の軽減税率も取り入れたものにしてからでなければ国民生活の安定には繋がらないのである。

あのまま自公政権が続いていたら2011年には消費税率アップが実行され、国民生活が破壊される可能性が強かったのである。このデフレの酷い時に逆進性の強い消費税増税はありえないのである。民主党政権になっても財務官僚の力は強いままであり、相変わらず早期の消費税アップを狙い続けているようだ。仙谷国家戦略相や前原国交相等7奉行は小泉前首相と同じ隷米の新自由主義者であり、消費税増税・法人税減税に傾きがちである。菅財務相も菊池氏の話も聞くが他の学者の意見にも影響されているようでありまだ安心できない。
菊池氏は先の国会でも公述人として素晴らしい発言をしてくれているが、民主党がこの意見を踏まえた政策になるよう見守る必要がある。これが国民の生活を守る最も大切な基本知識の核の一つであると思う。

朝日、日経を中心に全てのマスコミが財政再建のため早急に消費税を上げるべきと言い続けて民主党政権を批判している。彼らが現在の金持ち優遇税制の恩恵を受けている事と、マスコミの持つ既得権益を守りたい為と、株主・スポンサー・特権官僚達の意向を受けてのものであろう。一般の国民の事は恐ろしい程考えていないのである。それに加えて本当に勉強不足の人達である。テレビのキャスターもコメンテーターも一部を除き驚く程無知で傲慢な人達しか出さず、新聞を売る為に政局作りのみに忙しく、政策を深く論じない。正しい知識の深い人達が冷遇されているのである(官房機密費を貰っていた人達は全く論外で軽蔑すべき存在である)。

今この岩上氏等多くの実力の高いジャーナリストや学者・実務家達のご努力のおかげでネットで良質な情報が豊富に得られる時代になっており本当にありがたい。テレビ・新聞を殆ど見なくなって時間も余裕が出てきた。良書を読み、しっかり理解を深めた上で、皆で良い政策作りに参画していきましょう。それが本来の民主主義に繋がるのだと思っています。




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